スズメのお宿


       独身スズメの若者宿


小さな公園の桜の木に、
スズメが群れてさかんにさえずっています。
スズメのお宿です。
そこから大通りへ二百メートルほど歩くと、
もっと大規模なスズメのお宿のさえずりが聞こえてきます。
それはそれは賑やかな、
ひっきりなしにおしゃべりする小学一年生に似て、
元気の塊。
命の塊。


三百メートル離れていても、その声の束は聞こえ、
一羽なら決して聞こえることのないスズメの鳴き声が、
かくも遠くまで届きます。
たぶん数百羽はいるでしょう。
四本のケヤキの街路樹に集っているその群れに向かって、
さらに4、5羽、7、8羽と、
スズメは飛来してきます。
数はふくらみ、増える増える。
時刻は5時40分でした。


この四本のケヤキの木の、スズメのお宿は、
8月下旬にはもう生まれていて、
スズメたちは集って、
宵のうちはさえずり交わし、
夜は静かに眠りにつく、
その下には、
白い小さな糞が無数に落ちていました。


今年、この子らは、こうして互いに寄り添って、
励ましあいながら、
冬越しをするのです。


子スズメは5月か6月に、生まれます。
その子らが育って、
秋の幸を食べながら体力をつけ、
冬を越す準備をする、
でもまだ自分の巣を持っていない、
我が家のない子スズメたちは、
集団を作ることによって、
守りあい、
街路樹の葉陰で雨や雪、夜露を防ぎ、
かんかんと冷える真冬の夜を、
木々の枝陰で、耐え忍んで、
春を待ちます。


若者宿のスズメたち、
春がくれば、
つがいをつくり、
営巣して、
次の子スズメを育てます。
スズメ、スズメ、
スズメのお宿。


厳しい冬が、もうすぐ来ます。
この地方、稲刈りはこれからです。