雪の季節の小鳥たち

              写真:狐の足跡  

 明日、また雪になりそうだ。雪降る前に小鳥たちにくず豆をまいてやろうと、黒豆の掃除をした。発泡スチロール箱に入れてある黒豆は、収穫後に唐箕や風で主なゴミは飛ばしてあるが、まだ虫食いや成熟しなかった豆がたくさん混じっている。それを選別したくず豆が小鳥たちの食料だ。
 雪の季節は、鳥たちの飲み水も餌も足りない。大地は雪でおおわれ、木の実はほとんどなくなった。巌さんちの柿の実は遅くまで樹冠に残っていたが、それらもヒヨドリたちが食いつくした。かろうじて我が家のハナミズキに赤い実が残っていたが、それも鳥たちが食べきった。
 どこもかしこも雪におおわれてと言っても、樹木の根方の周囲に、雪の積もっていないわずかな空間がある。数日晴天がつづくと、いち早く雪が解けて地肌が露出するところがある。そこは地温がいくらか高いのか、大部分がまだ雪をかぶっているのに、そこだけ他より早く雪が融けている。そこに小鳥たちが集まってくる。食べるものを探して、枯れ草の間をスズメたちがついばんでいる。食べられるものはなかなか見つかりそうにないが、それでもスズメは小さなくちばしで掘り返している。
 昨年まで、冬の鳥たちの餌場(えさば)をヤマボウシの木につくっていた。ぼくのアイデア、約30センチ四方の杉の板を、頭の高さぐらいの木の枝に水平に取り付ける。その餌台に米ぬかを盛ってやる。米ぬかは、農協の緑のお店にあるセルフの精米小屋からタダでもらってくる。スズメたちはそれを知ると、どんどん集まってくるようになった。スズメはいつも群れている。朝から晩まで自由に群れておしゃべりをして、餌場に来ると仲良く並んで、くちばしでプンプン米ぬかを跳ね飛ばしながら食べている。ヒヨドリがやってきてスズメを追い散らし、独占することもあったけれど、いつしかスズメは対等に食べるようになった。
 その餌台が、昨年夏に枝からはずしたら、板はどこかへ行ってしまった。冬になったらまた作ってやろうと思っていたが、冬の日は早々と過ぎ行き、いつのまにか立春
 今年は餌台はなし。雪の融けた草地にくず豆をまく。選別したくず豆の箱を持って、地肌を現わしているハナミズキの下と、春にはスイセンが一面に姿を現すところに、豆をまく。
 ハナミズキの枝に十羽ほどの小鳥の群れが来た。彼らは餌に気付いた。スズメより少し大きいツグミのようだ。一羽が降りてついばみ始めると、他の鳥も降りてきて、豆を食べる。少し時間がたって、スズメの群れが加わっていた。
 庭が小鳥の命でにぎやかになると、他のいろんな小鳥がやってくる。ムクドリジョウビタキシジュウカラもいた。モズも来た。
 それからまた雪の日が来て、地肌のところが雪に隠れてしまった。それでも小鳥たちはやってきて、裸のプラムやハナミズキの小枝に止まっていた。食べものが不足していても、彼らは元気だ。
 雪がやんで晴れが来た。残っていたくず豆を全部まいた。
 スズメたちのやってこない時間帯は寂しい。小鳥たちのいない庭は寂しい。北アルプスの稜線沿いの空が夕焼けだ。もうすぐ暮れる。明日はまた雪だ。食べておかないと、ひもじいぞと小鳥たちを待つ。夕焼けがあせ夜がやってくる。そのとき、スズメの群れが帰ってきた。ハナミズキの枝にそれぞれ止まって動かず。ねぐらに帰る前のいこいのひととき。
 世界がある暗さになったとき、足元のくず豆に気付かずにスズメたちは姿を消した。鳥たちの姿はどこにもない。ぽっかりと命の消えた庭。明朝、雪積もる前、スズメたち、食べに来い。

 翌朝、雪雲が低く空をおおっている。スズメたちが豆をついばんで、飛び回っている。