酷寒のスズメ


 昨日の夕方、木枯らしが吹き荒れていたとき、野をぐるりと一周して風に向かって帰ってきた。家の入口に来た時、ころりと地面にころがっているものがある。スズメだ。仰のけになっている脚の一つがかすかに動いた。胸のにこ毛もふくらんだり、へこんだりしていた。まだ生きているか、でも眼は閉じたままだ。どうしたんだろう。昨日の昼間は、葉の落ちたハナミズキの小枝の一本一本にスズメが群れていた。やはり今年生まれたスズメたちだろうか。50羽か100羽か、群れは一斉に飛び上がって、別の樹に一斉に止まる。自律的な見事な集団行動だ。これからの酷寒を群れて生き抜く練習のようでもある。そんなに元気なスズメたちの中の一羽が、いま原因不明だが死にかけている。消えかけている小さな命だが、カラスやキツネにとっては、食料の足しになる。ひょっとしたら元気を取り戻すかもしれないから、田んぼの畔に葉を広げているタンポポの上に寝かせてやった。
 今朝、あのスズメ、どうなっているかなと、畔を探してみると、すでに命は果てていた。
 群れのスズメたちは、屋根の陽の当っているところに集まって日向ぼっこをしている。
 おとといの夕方、道で声がする。ミヨコさんの声だ。のぞいてみると、ミヨコさんが軒を見上げて、スズメに声をかけていた。夕暮れのスズメたちは、しきりに会話をする。チュクチュクチュクチュク、おしゃべりを交わす。鳴き声というよりも、言葉のような感じに聞こえる。単純ではない。微妙に変化する。
 「どうしたの?」
 「スズメに、何話しているだ?と聞いているだ。」
 「ワッハッハ、夕方こうしてスズメたちはにぎやかに会話しているねえ。寒いねえ、寒いねえ、と言ってるんですよ。」
 「ハッハッハッハ、寒いねえと?」
 ミヨコさんが笑った。道に出てきて、スズメの会話に気づくほど元気になっている。あの世から早うお迎えきてほしいと言って、弱り切っていたのは一カ月ほど前だった。スズメと会話できるほども元気を取り戻している。