異変に気づくこと


       アオマツムシ


今日も桜の木の上から虫の声が聞こえる。


秋の虫の異変に気づいたのは、もう十年以上も前のこと。
秋の虫といえば、コオロギがおなじみ、
エンマコオロギ、ミツカドコオロギなどが庭や土間にいて、
秋の夜長、美声を響かせていた。
スズムシ、マツムシ、ウマオイ、クツワムシ、カンタン
小学唱歌にもなっている秋の虫たち、
日本の秋の虫の常識があった。


変だぞ、
十年以上前、思ったとき、
異変はもうかなり進んでいたのだった。
虫が鳴いている。
ああ、秋の虫だ。
意識もせず、それで終わってしまっていた。
異変を捉えない。
人間の認識というものは、耳に異変が届いていても、
気がつかない。


気づいたきっかけは、
毎日通る道の端で聞こえてくる虫の音の位置だった。、
人間の背丈よりも高い木の枝から、声が聞こえてくる。
鳴き方が、絶え間なく連続する。
そこで耳を澄ませた。
よく聞くと、聞きなれない単調な声で、
秋の憂いを感じさせる虫たちとは異なる。
あのよく聞いた虫たちの声がない。
変だぞ。


この不思議に気づいて、ぼくは懐中電灯をもってきて、
木を見上げ、声の辺りを探し出した。
声はすれども姿は見えず、
いっかな見つからない。
一時間ほど木を観察したが、
とうとう虫を見つけることができなかった。


ぼくは大学の生物研究室に訊いてみた。
それはアオマツムシです。
意外な返事だった。


アオマツムシは、外来種で、日本に入ってきてから、
道路に沿って広がっていったらしい。
街路樹を伝わり、
自動車にくっついて、どんどん道沿いに広がっていった。
今では広範な地域に生息している。


反比例して、日本の優雅な秋の虫たちは、
なりを潜めてしまったようだ。
虫の世界のこと、
その数はどうなっているだろう。


日本の虫たちは草むらに生息する。
除草剤や殺虫剤、
虫たちに影響を与えたものは人間だ。
アオマツムシは木の上で生きるから、被害が少ない。
そういうことも繁殖に影響していたのかもしれない。


広辞苑を引いたら、
ちゃんと出ていた。
もうずいぶん前から、
彼等は日本の秋に鳴いていた。
日本の秋の虫の位置を獲得したのか。


マツムシ、コオロギ、カンタン、
今お前たち、どこにいる?