偶然の出会い


       コウくんとの出会い  


「コウです。」
白いハンチングをかぶった長身の若い男は、
ぼくを呼んでから名を名のった。
「おう、おう、コウくん。」
一年ぶり。まさかこんなところで出会うとは、
あまりにも偶然、偶然だなあ。
ぼくは初めてそのスーパーへ、
長良川の橋を渡って自転車でやってきた。。
彼はその近くの町の工場で塗装の仕事をしているという。
青島で一年前、彼らを教えた。
コウくんはクラスの班長だった。
ハンはどうしてる、トウは?
思い出す名前を聞いてみる。
みんな元気かな。
「給料はどう?」
「まあまあです。」
「中国の家に送っているの?」
「いや銀行に預けています。」


今朝のニュース、
中国人研修生が一年目は認められていない残業を
時給450円でやらされ、
もっと給料のいいところへ移りたいと希望して
仕事を拒否するようになったがために、
雇い主は彼を帰国させるべく、
空港に連れて行かせようとした。
それが元で刃傷沙汰になった。
抵抗する研修生が刃物で担当者を刺し、
自らも農薬を飲んで自殺を図ったのだ。


研修生たちは日本へ行くために、莫大な金を銀行から借りて、
それを派遣機関に払ってやってくる。
聞けば10万元、
そのうち4万8千元は契約した企業で3年間働いた場合、
帰国したとき払い戻してくれるが、
それにしてもすごい金額だ。
レートは1元15円だから、150万円。


外国人犯罪が日本で増えているというけれど、
その陰に何があるか、
ひどい仕打ちをしている企業、雇い主のいることが、
次第に明らかになってきていて、
それが犯罪の引き金になってはいないか。
厚生労働省が重い腰を上げたようだ。
調査を始めたらしい。


ぼくの知っている安曇野の企業は、
工場の建物に「日中友好」と書いている。
実に良心的で、友好に役立つ受け入れ企業も多い。
研修生・実習生が、家族の一員のように暖かく遇されているケースもある。


「コウくん、身体の方は大丈夫か。」
「はい、お腹の方が悪くなって、病院で薬をもらいましたが、大丈夫です。」
塗装の仕事で、マスクをしても吸い込んでしまうのだという。
あと2年、身体に気を付けよ、
子どもは元気か、
はい、上の子は、5歳になりました。
この3年間、彼は妻子に会えない。