手相

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 ベトナム人の実習生に日本語を教える活動を、公民館で続けている。今マンツーマンで教えているズック君は、日本語検定試験で3級をとり、その後2級を目指しているが、昨年暮れの試験では6点足りず、不合格になった。彼の会社は残業の多い仕事で、勉強時間もわずかしかない。それでもここまで来た。10年前に教えた研修生の中国人女性は、法で定められた三か月間の日本語指導を受けて、企業に入り、それから3年間の在留期間内に一級を取得した。会話も上手で、たいした人だと感心したものだ。

 ズック君は、ベトナムに帰るまでに、2級を取得したい。ぼくもそうさせたい。そこで、公民館の教室は日曜日夜だけだから、さらに日曜日の2時から4時まで、そして土曜日は午後4時ごろ仕事が終わり次第、我が家に来て、勉強してはどうかと勧めて、先々週「野の学舎」の工房で待っていた。ところが来なかった。そこで「約束して守らないとはどういうことだ」と連絡を入れたら、実習生たちでサッカーをやって、勉強が吹っ飛んでしまったらしい。後から陳謝の電話が来た。

 先週の土曜日は、ぼくの渡してあった地図を見ながら自転車でズック君はやってきた。その日は暗くなるまで勉強し、日曜日も予定通り学習できた。

 勉強のなかで、年を取るとシワが多くなるという話題になり、ぼくは手のひらを出して、手の甲のたくさんのシワを見せた。ついで手のひらを見せて、

「こちらはあまりシワがないねえ」

と言うと、ズック君は、自分の手のひらをだして、人差し指の両脇から手首の方へ三本の太いしわを示した。

「この線は生命線です。長いと長生きします。」

「それ日本と同じだねえ。」

ベトナムでは手相をよく見ます。」

「生命線ねえ。」

「この真ん中の線は、勉強線。」

「えー? 初めて聞いたね。勉強線?」

「はい、先生の勉強線、長いね。」

「おう、ズックのも長いよ。」

「長い人はよく勉強する。」

「はっはっは、そうかあ。」

「この右側の三本目の線、これは愛情線。」

「愛情線? 長い人は愛情が深いということかあ。」

「はっはっはっはー」

「先生は長生きする。」

「はっはっはー」

 二人して大笑いした。