お日さまとポンキー


           お日さまとポンキー


ポンキーはほんとうの日の出を見たことがありません。
夕日のしずむのも見たことがありません。
太陽はいつもビルの上から顔を出し、
いつのまにかビルの向こうにかくれていました。
太陽はせまい空をだまってよこぎっていきましたが、
ポンキーはあまり空を見ません。


ある日、ポンキーは、日の光に照らされた街路樹のプラタナスをながめていました。
プラタナスの木の下に、日かげができていました。
日かげは、お昼をさかいに、木の左がわから右がわに移動しました。
ポンキーは空を見ました。
「お日さまがいたんだ。すっかりわすれていた。」
ポンキーはつぶやきました。


夏になるとポンキーは、お昼前まで木の左側にすわり、
お昼を過ぎると木の右側にすわりました。
「日かげは、すずしいね」
ポンキーはつぶやきました。


冬になるとポンキーは、お昼前まで木の右側にすわり、
午後になると木の右側にすわりました。
「日なたは、あたたかいね。」
ポンキーは、つぶやきました。


ポンキーは、五郎ちゃんと旅に出ました。
まちをとおりすぎていきました。
畑をとおりすぎていきました。
川をわたっていきました。
「空がひろいね。」
ポンキーはつぶやきました。


広い広い草原にきました。
はじめて来たところでした。
「なんだか、なつかしいな。」
ポンキーは、つぶやきました。


五月の太陽が輝いていました。
お日さまは、東の山からのぼりました。
「はじめて日の出を見たよ。」
ポンキーは、つぶやきました。


夕方、お日さまが、西の山にしずんでいきました。
「お日さまは、お空にながくいるんだね。」
ポンキーはつぶやきました。


ポンキーは五郎ちゃんと、お日さまがのぼるまえに目をさまし、
一日じゅう草原をさんぽしました。
鳥がいました。
へびがいました。
バッタがいました。
夜になると、ポンキーは草原にねました。


六月になりました。
日の出はだんだんはやくなりました。
「いま、ごぜん四時半だよ。きょうは一年でいちばん太陽がお空に長くいるんだよ。」
と五郎ちゃんがいいました。
草原は日の光に輝きはじめました。
その日が「夏至」(げし)という日でした。


七月になりました。
お昼の太陽は、ぎらぎらてりつけました。
ところが日の出は少しずつおそくなり、
ごぜん五時に太陽が山から顔をだしました。


夏至をすぎたら、
お日さまがお空にいる時間はだんだんみじかくなるんだよ。」
と、五郎ちゃんがいいました。
夏至がすぎたら、お空は冬にむかうんだよ。」
でも、夏休みはこれからです。
「あつい夏は、これからだけど、
いちばんあついとき、もう冬が近づいてきているんだよ。」
と、また五郎ちゃんが、いいました。


夏の風は、草原を吹きすぎていきました。