太陽の昇る位置、沈む位置


 工房を建てたお陰で、工房の北側が6メートルほども日陰になった。ここでは、屋根から北側に落下して堆積した雪はなかなか融けない。今はそこの日陰の畑も、夏のあいだは、かんかん日が当たって、野菜も稔っていた。
 日差しの角度は夏と冬では驚くほど差がある。南の地平線から太陽までの角度を正確に測ったことはないが、おおざっぱに観察すると、夏は90度に近く、冬は45度よりも鋭角になっているのではないだろうか。
 この差は、日の出と日没の位置にも見られる。冬至のころは、日の出の位置がぐんと南に寄っていて、我が家の辺りから見ると、朝の日は八ガ岳から頭を出した。それが、この1ヶ月の間に、どんどん北に移動し、今では美ヶ原の南の肩から昇ってくる。やがて朝日は日を追う毎に美ヶ原の山並みを転がっていって、夏になると美ヶ原の北から昇る。それはほとんど真東になる。
 冬の太陽の一日は、南の中空を駆け足で進んで、野の南にそびえる鍋冠山あたりに沈む。日没の位置も、春から夏へと北に北に移動し、夏の太陽は、西の常念岳に沈んでいく。
 大自然のこの壮大な変化は、毎年繰り返されることであっても、いつもいつも初めて出会うことのように新鮮な驚きを感じる。
 「おとといはマイナス14度だったよ。床下の配管が凍ってしまってね」
と高橋さんが言う。
 「もうイヤ、まいった、まいった」
 愛犬オミソちゃんを連れたおばさんが顔をしかめる。
 「風引かんように。年取ったら、風邪こわいだ。嫁に行った娘の父が肺炎で死んだでね。驚いたね。その二日前は元気だっただ。昔はもっと寒かったし雪降ったね。土見えなかったね。雪が降るからいいだ。害虫死ぬでね。風引かんように」
 歩幅10センチほどで、ぼちぼち散歩している92歳の平林のじいちゃんが言う。

 それにしても、なんと毎日、寒い日が続くことよ。
 どこもかしこも雪に覆われて、小鳥たちの食べ物がない。少しばかり地面が露出している軒下などにスズメの群れが下りて餌を探している。それではと、庭のヤマボウシの枝に、板切れで餌場をつくってやり、バターピーナツを20粒ほど載せておいた。スズメさんは、見慣れぬものが枝に取り付けられたからか、警戒してなかなか食べに来ない。群れを成すスズメ、数羽でくるヒヨドリ、2羽で来るゴジュウカラセキレイ、日中餌を探して飛び回っていた鳥たちは、短い日が西に沈んでしばらくすると、ぱたっと姿を消す。南の空が夕日の残照で赤く染まり、やがて薄墨色の夜の帳(とばり)が忍び寄るある暗さになったとき、鳥たちは一斉に姿を消しねぐらに帰る。暗さの尺度があり、それを感じ取ると、彼らはいつもの場所に移動し、寄り添って一夜を過ごすのだ。