糸はりと草刈り


        ちょっと手伝い


アイガモの入るタカオさんの田んぼに、
糸を張るのを手伝いに行った。
細い黒糸にアルミのような銀色の繊維をまきつけてある鳥防止の糸を、
二反半の田んぼ全面に、
稲の1.5メートルほどの高さで、
縦横に張り渡していく。
こんなに細い糸、鳥に見えるのかね、
上空から見たら、光るんかなあ、
人間の眼には見えにくい、クモの糸みたいだ。
田んぼの脇にすえつけた鳥小屋の上には三間四方の網を張った。
小屋の屋根にカラスやトビが止まって、カモをねらわないようにするためだ。
田んぼの周りは既に高さ一メートルほどの網で囲ってある。
キツネはここまでは来ないだろうし、
オオタカもたぶん、ここは大丈夫。
小学校の児童が学校から帰ってきた。
女の子四人、けげんそうな顔。
あした、カモが入るよ、
タカオさんが言うと、
女の子たち、
さわりたーい、さわりたーい。


糸を張り終わったらもう六時。
畦にすわって、タカオさんは話す。
今からゴボウ畑の草取りに行こうかな。
今晩は「多文化共生社会」の会議があって、それに行かなければならないんでね。
毎晩いろんな会議がつづき、畑の草取りも遅れ遅れて、
トマト畑も、野菜畑も、田んぼの畦も、
草ぼうぼうです。
アイガモはあした、私の農の師匠から20羽借りてきます。
タカオさんたちグループで購入したカモの雛は、
他のメンバーに分けて、
残ったタカオさんの50羽が全羽、結局何ものかにとられてしまったのだった。
もっと農作業に時間をとりたいのだけれど、
あれもこれもやっていたら、とても時間がない、
タカオさんはすこしぼやきぎみだ。
地域の企業で働く外国人労働者の子どもが、
日本語を話せないから入学を受け入れられないと、
小学校で拒否されていることをどう解決するか、
彼の活動はそこにも踏み込まざるを得ない。
自治体に、受け入れる条件を整える予算がないというのだ。


翌朝、ぼくは彼の田んぼの草刈りに行った。
タカオさんがカモを借りて持ってくる10時より前に、
畦の草を刈っておいてやろうと、
物置から草刈機を出して車で行った。
機械は順調に動いた。
アイガモ田んぼの周りと、アイガモを入れられなくなった別の田んぼの畦を、
円盤をぶんぶん回して刈った。
高齢化した数軒の農家から借りている田畑だから、
あっちに一枚、こっちに一枚、
はるか距離を置いてぽーんとあったりする。


援農というほどのことでもない手伝いだ。
自分のやれることは、たかがしれてはいるが、
多忙をきわめて、焦る彼の気持ちが行き詰らないように、
心が少しほっとするだけでもいい。