道端での会話


       絹さや


これかね、絹さやだね。
去年秋に植えて、冬は雪の下にあっただが、
どういうわけだか、よく育っただね。
やわらかくて、おいしいだよ。
わたしゃ、しろうとだがね。
こうやって、畑してりゃ、
空気はいいし、景色もいいし、
よそへ行って、おしゃべりばかりしてるより、
よっぽどいいよ。
そこの田んぼの主の土地だよ、ここは。
あそこの住宅の五軒で借りているだ。
その牛糞堆肥かい、二トン車で持ってきてくれただ。
あのネギは、一本ずつ間隔あけて植えてあるだ。
この辺のと種類が違うで、よく分結するだよ。
イチゴもできてきたね。
まあ、わたしゃ、足が悪いし、
女手でやってるだから、男みたいにいかんね。
三年前に、父ちゃんが突然亡くなったわさ。
調子わるくなったで、病院に行ったら三日入院しただけで、
逝っちゃっただよ。
ガンだったさ。
なーんもそれまで自覚症状がなかったわさ。
病気知らずでね。
突然だったね。分からんもんだ。
七十五歳だったさ。
それまで毎日ここに来て、元気に畑やってたさ。
それからわたしが、この畑に来てるだ。
とうちゃんが、信州の人間でね、
十五年前まで静岡に住んでいただが、
わたしゃ、年取ってそんな寒いところへ行きたくない言うたども、
ちかごろ、安曇野も変わったっていうからよ。
風も昔ほど強くなくなったし、雪も少なくなったというから、来ただ。
信州人はむずかしいね。


おたくのように、知らない人でもあいさつしてくれる人と、
何も言わないで行く人と、いろいろだわさ。
日本もおかしな事件が起こるし、
ひどい世の中になってきただね。
家族だよ。
家族がこわれてしまっているだ。
どこに住んでるだ?
ああ、あの家かい。
左から二軒目の、角の家だね。


絹さや、味噌汁にいれるといいよ。
やわらかくて、おいしいいよ。
待ってな、袋に入れてやるから。