かみなり


         かみなり


久しぶりの雨が来た。
リンゴの摘果をしていた、四時ごろ、
東の空が暗くなって雷が鳴りだし、
ぽつり、ぽつり、
今日はここまで、
テルちゃんはウーファーたちを車に乗せて、
小倉山農場へ、
ぼくは、反対方向の自宅へ車を走らせた。
雨は北からやってくる。
安曇野は雨が少なく、このごろ地面が乾燥して、
畑や庭の植物が水を求めていたから、
いい雨だ。


車で山麓の道を北へ向かうと、
小学生が学校から帰ってくる。
男の子が三人、田んぼの中の道を傘さして。
風に傘がまつたけになっているぞ。
稲田の間に、麦畑もひろがり、
大麦は乳白色に豆の粉をまぜたような、
ふんわり柔らかな、なんとも美しい色になっている。
かみなり、ごろごろ、
落雷の危険もあるぞ、
ぼくはどうしようかと迷ったが、
迷いをふりきって、車の窓を開け、
徐行しながら小学生に声をかけた。
「かみなり、かみなり、
あぶないよ、あぶないよ、
急いで、おかえり、
急いで、おかえり」
小学生は、あわてて田の道を走り出した。
雨は次第に激しくなり、
道も田畑も、車も家も、
すっかりシャワーに洗われた。


あの子どもたち、雨のシャワーを浴びただろう。
今の時勢、ぼくが車に乗せて送ることもできん。
シャワーを浴びるのも、
強風に吹かれるのも、
吹雪の道を帰るのも、
子どもたちにとって体験しなければならないことだ。


子どもの頃に、
体験しておかなければならないことがある。
自然の中で、危険に近くて、
きびしい体験を積み重ねることで、
子どもは強くなり、
賢明になり、
観る眼をもち、
判断力を養い、
生きる力をたくましくする。