リンゴの花盛り 

 
        もみじの移植


安曇野はリンゴが花盛り、
枝をとりまいてくっついた白いリンゴの花に、
薫風が吹いている。
いちばん快適なこの季節、
晴れた日は夕方遅くまで農園に人の姿がある。
「四月は風のかぐわしく」と賢治が詠った陰暦四月は今ごろ。


今度引越しをした家の庭は石ころ交じりのひどい土で、
引越しの荷おろしに来てくれた若い人たちに話したところ、
アキオさんが畑の土をあげると声をかけてくれた。
彼は三十台の、若いリンゴ農家の主だ。


一面のリンゴ園のなかにアキオさんの家はある。
奥さんのテルちゃんと幼児二人の四人家族のなかへ、
ときどきやってくるウーファー(ウーフの宿に来る人)が加わる彼の住まいは、
大草原の小さな家」のように農園の空と土とリンゴの花のなかにとけこむ一軒家だ。
家の前は牧草畑が青々と波打ち、
北と西がリンゴ園、
南に今年トマトを植えている。
先日やってきたオランダ人の青年ウーファーと、
地元の青年とが一緒にトマトの苗を植えていた。


アキオさんが土をあげるという裏庭には、
赤い葉のもみじの木が数本あり、
これから倉庫をつくる関係で、
その一本を伐ろうかどうしようかというから、
三メートルほど伸びた一本をもらうことにした。


アキオさんはトマトの定植を中断して、
小型ユンボで木の周りを掘ってくれた。
その後、ぼくは枝を払い、スコップを使って木の下をまるく掘り進めた。
根切りをし、根鉢の形を整え、スコップの先端が木の真下あたりまで達したとき、
幹をぐいと押すともみじの木は根鉢ごとごろりと倒れた。


倒したまま根鉢をシートで巻き、荒縄でしばり終わると、
もらっていく土を石灰の空き袋に分けて詰めた。
時刻は六時ごろ。
明日も晴れるでしょう、もみじを運ぶのは明日にしましょう、
ということになり、
アキオさんは土だけトラックで運んでくれた。
もみじは明朝ユンボでトラックに載せて運ぶ。


ところが翌日、雨が降っていた。
運ぶのは明日に延期することにした。