雪かき、雪捨て

 昨日の午後、野菜のビニールトンネルに積もって、押しつぶしてしまった雪を取り除いていた。畝の上に、いくらかの間隔をあけて、アーチ形に骨組みをつくり、そこにシートをかぶせたトンネルで、その下にキャベツが植わっている。それがぺちゃんこになった。キャベツは食べごろまでまだ日数がいるような育ちだった。40センチほど積もっている雪はほうっておいたら、いつ融けるか分からない。一輪車に雪を積み、20杯ほど田んぼのなかに持って行き捨てる。雪をおおまかに取り除いたころ、急速に冷えが強まった。気温は、日が沈んだとたんにマイナスの世界にどんどん低下していく。身体の芯が冷えはじめた。身体の冷えはよくないから引き上げることにして、家の玄関前に来ると、叫び声が聞こえた。お向かいのミヨばあちゃんの声だ。
 「ミヨコさん、大丈夫ですか?」
 大声で言うと、生垣の向こうから声が返ってきた。
 「大丈夫ではないだ。あー いたた、ころんだだ」
 急いで行ってみると、ミヨさんはひざをなでている。
 「車に、リンゴを積んでいたで、しみるといけんから、取りにいっただ。ころんでしもうた」
 リンゴの入ったダンボールを抱えて、ガレージからもどるとき、庭の雪にすべって転んでしまったと言う。怪我はないようだった。ガレージの車にエンジンがかかっているから、どうしたのかと訊くと、最近乗っていないので、バッテリーが上がるといけないから、しばらくエンジンをかけようと思って出てきたとのことで、そのこともあった。ミヨさんが転んだところの雪が大きくへこんでいる。
 「力がないから運んでよ」
 リンゴ箱はそこから数歩の軒下にあった。箱をかついでミヨコさんの家の中まで運ぶと、家の中は寒かった。
 「毎日、どうしてるの?」
 「寝ているだ。寒いから」
 脚も衰えてきている。しっかり食べているのか気がかりだった。いつもそれを訊くと、食べてるよと言うけれど、実際どうなんだろう。食事を作る気力があればいいが、気力がなくなれば適当に店で買ったものを食べて、栄養足りず体力は弱る一方になる。本当に大丈夫かなあ。
 「この前、雪かき、ありがとね」
 「いや、いや。何かあれば電話してくださいよ、遠慮しないでね」
 「ありがとね。リンゴ持っていきましょ」
 「いえいえ、それはミヨコさんが食べる、たくさん食べたほうがいいよ。」
 「そんなこと言わないで、おいっこが作ってるだ。もらってくるだ」
 そう言いながら、ミヨさんはポリ袋に6個も入れてくれた。車のエンジンをかけているのは、明日、車で出かけるからと言う。それじゃ、車の出口の雪かきをもう少しやらねばならない。
 「何時ごろ出かけるの?」
 10時ごろと言うので、今朝、スコップを持って行った。車はバックで車庫の中に入っている。道路に出るとき、道路にそって直角に曲がらねばならないが、その道路ぎわの雪が50センチほどもあり、これでは車にひっかかる。スコップで雪をどけ、出口を広げる。アスファルトに凍りついた雪はカチンカチンで、スコップをはねかえす。これでは、ツルハシが要るぞ。
 ミヨさんは、まだ寝ているようだった。