ツバメの巣


      我が家のツバメ


安曇野に来て、数日後、
家の玄関前の軒先に、ツバメが巣を作っている。
ぼくの人生ではじめて、ツバメが来て巣をつってくれている。
「ショウチュウ イッパイ グイー」
としきりに鳴く。
奈良の古い家でも、ツバメは巣づくりしてくれなかったが、
ここに来て、ツバメ君が来てくれたとは……。
玄関を出入りするときのぼくの頭の位置から巣までは五十センチぐらいしかない。
今日、玄関の戸を開けていたら、家の中まで飛び込んできて、
ぐるぐる様子を見て出ていった。
夜、門灯を点けると明るすぎるから、今は消してやっている。


木曽の妻籠の、以前民宿をしていたとき、毎年泊まりに行っていた旧家にもツバメが来ていた。
そこは、入り口の障子戸をくぐった土間の梁に巣をつくっていた。
ある年、たまたま寄り道して訪れたとき、
呼んでもだれも出てこない、ひんやりした土間の上で、
ツバメがヒナを育てていた。
巣は家の主が取り付けてやった板の上につくられていたが、
どうしたはずみか、巣がヒナを載せたまま板ごと落下した。
そのとき、外から奥さんが帰ってきた。
「おや、まあ、吉田さん、おひさしぶりです。あれ、巣が落ちたかや。お父さんが付けてくれた板が取れたんかね。」
ぼくは、巣の一部と共にもう一度板を梁に取り付け、
毛もまだ生えていないヒナを拾って巣の中に入れた。
それから後、ヒナが無事に育ったかどうか分からない。
その家では、ツバメは入り口の障子戸を潜り抜けて飛び込んでくるから、
昼間も戸を開け放してやっている。
夜は、ツバメも休むから、戸を閉める。
では、朝はどうするのだろう、と疑問が湧いた。
初夏の朝は早い。
たぶん五時前、薄明の頃、ツバメと共に起きる暮らしをしているのだろう。


我が家のツバメ、まだ卵を産んではいないのだろう。
人間のいる、安心できるところに巣を作るツバメ、
人類とツバメの長い、長い付き合い、
ヒナが顔をのぞかせる日が楽しみだね。