田を守るばあちゃん


        神田のばあちゃん


神田のばあちゃんは、すこし腰が曲がっている。
春日のなか、田んぼに出て、一人でもみがら撒いていた。
よう、ごせいが出ますなあ。
はようせなあかんのやけど、なかなかでなあ。
田のあちこちに袋を置いて、曲がった腰でもみがらを撒き散らす。
足もともおぼつかないが、
それでもしっかり田んぼの土を踏んで
ばあちゃんは田んぼを守っている。


ある日、草刈機であぜの草を刈っていた。
棚田の間の狭いあぜ、
大丈夫ですか。
ここなあ、なかなか手が回らんでなあ。
草刈機もってひっくりかえったら、あぶないですよ。
人のとおれるようにしとかんとなあ。
息子さんにやってもらったらいいのに。
ははは、なーんもやりませんわ。
息子は会社にかよっている。
嫁の姿は見えない。


たまに、じいちゃんも田んぼに出る。
黙ってにこにこ、小屋の脇に座っていた。
じいちゃんは、ばあちゃんより、
もっと体が不自由なようだ。


神田のばあちゃんは、朝、犬の散歩もする。
ちょろちょろ、路地を通って近所を回るだけ。
もう犬も年寄りでなあ、
人間で言えば90歳。
路地の草かきも、ばあちゃんの仕事。


ばあちゃんには小学校一年の女の子の孫がいる。
家の門のきわにコンテナを置いて、
一盛りいくらの札をマジックで書き、
秋には柿を売る。
おしゃまな孫はばあちゃんのよき助手になり、
はきはき声をはりあげて、
はい、一盛300円です。おつりですか。はいどうぞ。
なかなか、しっかりしたいい子ですねえ。
はははは、ばあちゃんの顔がくしゃくしゃになる。


じいちゃんが入院してますねん。
ありゃあ、たいへんですねえ。
心配していたら、
快復に向かってきましたと、うれしそう。
大根、ありますか。
ありがとうございます、大根は作っています。
ばあちゃんは人にプレゼントして楽しい。


もうすぐ田起こしが始まる。