デートと逢引き

  
        デートと逢引き


じゃあ、会話練習ですよ。
今日は「〜ように」の練習です。


「明日、夕方五時に、駅前の喫茶店でデートしましょう。
時間に遅れないようにね。」
「はい、遅れないようにします。」


先生、「デート」というのは何?
ホンさんが質問した。


「デート」、知らない?
「デート」は英語です。
日本語には、ええっと、「あいびき」という言葉がありますが、
いや、これは古い言葉で、今は使わないですね。
あれれ、「デート」に当たる新しい日本語がないねえ。


中国語でなんというのかな?
ぼくは日中辞典を開いてみた。
<デート  約会 yuehui。>
ふーん、「逢引き」だったら?
<逢引き  幽会 youhui>


「逢引き」という言葉には、秘密の響きがあるなあ。
ホンさんが日中辞典の「幽会」を見て、
「これは、よくないです」
と首を振りながら言った。
こっそり会うという感じが、「逢引き」にはある。
中国語の「幽会」にもそういう感じがあるようだ。


今の「デート」には、秘密の感じはない。
明日、何時に、どこそこでデートしましょう、
みんなの前で隠さずに使ったりもする。


広辞苑には、
<逢引き  互いに語り合ってひそかに事をたくらむこと。特に男女の密会を言う。>
<デート  日時や場所を定めて異性と会うこと。あいびき。>
「逢引き」という言葉を使っていた時代、
恋する二人は、こっそり人に知られないように会っていた。
今のデートは、秘密性はないものの、二人が会うことは、二人だけのこと、
他の人に関与されたくない、という気持ちが働く。
言葉は、その時代を反映する。
「逢引き」は、古色蒼然とした言葉になってしまった。
今の日本語に、「デート」にあたる言葉がないのも、
戦後の日本社会の実態の表れだろう。
中国語もひょっとしたら、
<デート  約会 yuehui。>
とあるものの、
若い人たちは、「デート」を日常語として使い始めているかもしれない。


国際フレンドの会で日本語を学ぶホンさんに、
次の会話です。
「スーパーマーケットへは、夕方六時を過ぎてから行くようにします。
六時を過ぎると、おすしがやすくなります。」
「はい、そうです。新鮮なものは、その日に売ってしまいます。」
ホンさん、笑いながら言いました。