高校入試の朝のこと


        高校入試の朝のこと

       
市役所の近くにJRの駅がある。
上り線と下り線のホームをつなぐ、陸橋と駅舎のかもしだす雰囲気は昔のままだ。
駅から歩いて5分ほどのところに私鉄の駅もある。
JRは、上り下りの列車は昼間一時間に一本、私鉄は一時間に四本の電車が動いている。
JRの駅が、無人駅になったのは数年前。
利用客が少ないために赤字路線になり、駅員をなくしてしまった。
市は、中心駅が無人になってしまうのは、市民にとって不便であるから、
JRと契約して、駅務を行なう人をシルバー人材センターから派遣してきた。
だから、おじいちゃん駅員。
シルバー駅員は、切符の販売、清掃などを交代で行なっている。


高校入試の日、シルバー駅員はOさんだった。
朝、和歌山行きの電車が着くと二人の女子中学生が降りてきた。
二人はOさんに涙を浮かべてたずねた。
「戻る電車はいつ来ますか」
聞くと、受験する高校へ行く途中で、乗り換え電車を間違って和歌山行きに乗って来てしまったという。
次の上りを待っていたら、とても間に合わない。
Oさんは、とっさにタクシー会社に電話をかけ、やってきたタクシーに二人を乗せると、
「8時半に間に合うように送り届けてほしい」
と、財布から一万円をだして顔見知りの運転手に渡して頼んだ。


9時過ぎ、運転手は帰ってきた。
「間にあったで」
笑顔で釣り銭を差し出した。


市は、財政難からシルバー駅員も廃止しようとしている。
財政難を建てなおすために、何を切って、何を変えたらいいだろう。
判断がむずかしい。
Oさんといっしょに介護相談のボランティアをやっている妻から聞いた話である。
あらためてOさんという人物を知った。