朝霧


      朝霧


山は晴れ、しののめに光さし、
春のきざし。
日の出に向かって歩いていく。


前方、流れくるもの。
耕された冬田の上一、二メートル、
灰白色の薄い布のようなものが
舌のごとき先端を伸ばして、
地表をなめるように動いてくる。
みるみるそれは丘や人家、木々を隠し、
時速30キロメートルぐらい、
東方の景色を幕でにおおいつくした。
朝霧だ。


霧はたちまち到来し、舌端はぼくとランを飲み込みひろがり、
西へ向かって移動していく。
風景はおぼろに消え、
西の山々も、村も霧に没した。
日の光は薄れ、気温が下がる。
まつげがねばねばする。
視界は十メートル。
約一時間、ほのかに暗い霧の野をいく。


とつぜん風向きが変わり、
西風が出てきた。
とたんに空が明るくなった。
霧が薄れていく。
街道の家並みの間にもたちこめていた霧は空に立ち上り、
霧の幕の向こう、日輪の白い輝きが増してくる。


霧が消えていった。
何事もなかったかのように、
地上のすべてのものが現れ、
朝の光が満ちる。


22日の朝霧は、
近畿一円いたるところに発生した。
気象から発生した同時現象、
自然界の妙。