病気


      病気


運動公園でボールを追って走っていたランが、途中で排便をした。
グランドのウンチを、トイレットペーパーをセットしたポリ袋で取り除く。
ここ二、三日、ウンチがやわらかい。
あれ、血らしきものが混じっているぞ。血便?
ランのかかりつけの動物病院に行く。
これまで、フィラリアの薬をもらったり、避妊手術をしてもらったりしてきた医院。


ランは診察室にはいるとき、少し足を突っ張って抵抗したが、観念して部屋に入った。
若い女医さんが、診てくれた。
診察台に抱えて乗せる。体重は約23キロ。
「何か食べたもので思い当たるものはありませんか。」
「いや、特にありませんね。」
便を調べましょう、医師は体温計を肛門から挿入した。
体温計に便がかすかに付いたが、よく分からない。
「便を持ってきているので、それを持ってきます。」
車に戻って、便を持ってきて渡した。
医師はそれを持って別室へ行った。
ランは落ち着きなく、ぼくの周りで歩き回る。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
体をくっつけてくるランの体をなでてやる。
寄生虫は見当たりません。便に腸の粘膜が付いていました。」
原因は分からないが、腸炎のようだった。
「注射をしましょう、首を持っていてください。」
医師は、首の上部に注射をした。
ランはただ静かにされるがままにしていた。
「イヌは痛みを感じないんでしょうか。」
「痛がる子もいますよ。」
痛いけれども受け入れているのか。
明日の夜まで、絶食させてください、明日の夜からの薬を出します。


待合室には、飼いイヌをつれてきた人たちが、六、七人待っている。
同席しながら黙っているより、お話するほうがいい。イヌでつながる間柄なんだから。
右隣に座っている若い夫婦に話しかける、どこがわるいのですか。
フィラリアで、死にかけたんです。心臓まで来ていて、手術しましたが、フィラリアはまだ残っています。」
ランと同じぐらいの体の大きさ。フィラリアは蚊が媒介する寄生虫だ。
左隣の夫婦も若い。イヌは小さなダックス。
胃がんです。転移しているかもしれないと言われています。」
ガンは大きく、抗がん剤で治るかどうか分からない。
愛するものがいること。それは喜び、楽しみ、そして悲しみ。


今朝、ランと田んぼの道を散歩したとき、
リードを強く曳きもせず、同じ速度で並んで歩いた。
初めて一緒に散歩する、同行二人の気分。
これまでは、散歩を楽しみ味わうというより、
訓練しているという気持ちが先行していたから、
二人で散歩という気分まではいかなかった。
「同行二人」は、四国巡礼の人たちが弘法大師とともに歩くということだが、
この言葉、敷衍して使いたい。
考えてみれば、あの時既に体調がすぐれなかったんだろうか。


ランは、静かに絶食した。
オオカミは、何日も獲物にありつけなくても、
それを従容として受け入れる。
それが自然界の法則。