落語で子どもを引きつける


       落語


Kくんは、大学落語研究会に所属していた。
いろんな社会経験を経た後、三十代になって教職を志し、
採用試験を受けたが、不合格になった。
かねがねぼくは、教員試験の試験官や評価の基準と方法に疑問を持っていた。
ある自治体の面接試験のTV映像を見た。
試験官の発する傲慢不遜な言葉と態度。
この試験官に人の器を見る眼があるのだろうか。
子どもと向き合い、ともに教育をつくっていく人間性を最も重視すべきだと思うのだが、
やっぱり知識量がものを言う試験制度だ。
知識なんて教師になってからいくらでも増やせる。
それより何より、子どもが好きで、子どもと生活し、学びを創造する、
人間性の深さ、社会性、バイタリティが重要ではないか。
「千里の馬はあれども一人の伯楽はなし」か。


和歌山大学の教員養成講座に、
落語を採り入れているという。
子どもを引きつける授業の方法を、落語の話術から探る。
間のとり方や笑いなど、落語には相手を引き込む工夫が凝らされている。
教師と生徒のコミュニケーションにも役立つ。
落語演習をした結果、
学生たちは、大勢の前でも、物怖じしないで、
相手の反応を見ながら会話する力を身につけた。


Kくんよ、
この新聞記事を見たか。
落語を採り入れているというぞ。
Kくんから返事が来た。


いるんですね、同じようなことを考えている人が。
落語は1人でハナシをしている外見ですが、
ものがたりの力としぐさでリアルな世界を見せて、
見る人をぐいぐいとひきつけますね。
高学年の歴史の授業なんかでは、
人物を通して歴史を教えるのに、
落語はすごく威力を発揮しそうです。
低学年で伝わるかどうか、実験してみたのですが、
帰りの会で、
「今日、こんなうれしいことがありました」
と、私からお話をして、
児童とのやりとりを落語風に見せて演じてみせたところ、
大うけでした。
クラスのお友達のまねを先生がやっている、
そのこと自体が面白かったと思います。
算数の授業でも、
教室の隅にあるパンダのぬいぐるみと私は会話をしながら導入をしていくと、
席についていなかった子も席について、
お、先生がなにか始めたぞ、という感じで静かになります。
前の方の席の子を笑わせるのがポイントですね。
「静かにしなさい」というセリフがなくても大丈夫。
楽しいことには貪欲に反応するのが子どもですね。


Kくんの年賀の挨拶、
「一年間講師をやって、これだと思いました。
今年は合格しますよ。」