滅びゆく野の自然

 

    今朝起きたら雪がかなり積もっていた。暦は三月に入った。

もう春だ。春の歌が頭に浮かぶ。まだ風は冷たいし、野のベンチでしばらく歌えない。温かくなったら、ベンチに座って、アルプスを眺めながら歌を歌おう。

    明治期から学校で教わり、子どもたちに歌いつがれてきた歌は、多く自然が主題になっている。だがその自然はすっかり変わってしまった。

 

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春は早うから 川辺の葦に

蟹が店出し 床屋でござる

チョッキンチョッキン チョッキンナ  (あわて床屋 大正8年作)

 

     どこかで春が 生まれてる

     どこかで 水が流れ出す

     どこかで ヒバリが鳴いている

     どこかで 芽の出る 音がする 

     山の三月 こち(東風)吹いて

     どこかで春が 生まれてる   (大正12年作)

 

春の小川はさらさら行くよ 

エビやメダカやコブナの群れに

今日も一日 ひなたで泳ぎ 

遊べ遊べと ささやきながら   (大正元年作)

 

      チョウチョ チョウチョ 菜の葉にとまれ

      菜の葉に飽いたら 桜にとまれ

      桜の花の 花から花へ

      止まれよ 遊べ 遊べよ 止まれ

 

      起きよ 起きよ ねぐらのスズメ

      朝日の光の さし来ぬ先に

      ねぐらを出でて こずえに止まり

      遊べよ スズメ 歌えよ スズメ  (明治14年作詞 原曲スペイン)

 

菜の花畑に 入日うすれ 見渡す山の端 かすみ深し

春風そよ吹く 空を見れば 夕月かかりて におい淡し

里わのほかげも 森の色も 田なかの小道を たどる人も

蛙の鳴く音も 鐘の音も さながらかすめる おぼろ月夜    (大正3年作)

 

 

    学校で習う歌は時代の精神を現わす。昭和20年、敗戦日本で生まれた歌は「めだかの学校」。日本の学校軍国主義教育から、民主主義教育に転換した。

 

 めだかの学校は 川の中 

 そっとのぞいて 見てごらん

 そっとのぞいて 見てごらん 

 みんなでお遊戯しているよ

 

 めだかの学校の めだかたち 

 だれが生徒か先生か

 だれが生徒か先生か 

 みんなで元気に 遊んでる

 

    めだかの学校は うれしそう 

 水に流れて つーいつい

    水に流れて つーいつい 

 みんながそろって つーいつい

 

 そして現代。経済発展と反比例して、野の川のメダカやコブナ、ザリガニも、水田の無数の小動物も、草原のバッタやカマキリやトカゲ、昆虫たちもほとんど滅びてしまった。あんなにも、あんなにも群れていた生き物たち、みんないなくなった。

 小動物たちの歌も滅びてしまうだろう。