ランの一周忌

 

 

 ランの一周忌です。

 去年、暑い暑い日つづいたとき、ランは水も飲まず、玄関の土間に横たわり、静かに逝きました。16歳でした。

 庭の、樹々の茂るところに、ランを埋葬してやりました。

 お墓の上に、大きな木材で墓標をつくってやりました。

 その墓に、「ランよー」と声を掛けてやりました。

 ランは大分の直ちゃんのところに生まれた子犬をもらって、瀬戸内海フェリーに乗せて奈良の我が家に連れて帰り、

金剛山麓を毎日散歩しました。訓練の仕方が分からず、

ランは、引っ張らないで飼い主と同じスピードで歩く訓練がたいへんでした。

暑い夏の日、庭につながれたランは、自分で勝手に土に穴を掘り、その穴の中に入って休んでいました。

安曇野に引っ越してきてからは、訓練も受け、同速歩行もできるようになり、

烏川渓谷へ行くと、谷川に飛び込んで泳ぎました。

暑さでほてった体は、冷たい水でたちまち快適になりました。

山際でときどきサルの群れに出会いました。

ランはたちまち猟犬になって、興奮しました。

 

ランのいない今、野を歩く人の犬が、喜びを引き起こしてくれます。

先日、メイちゃんを見ました。白いラブラドールです。

ランがいなくなってから、メイちゃんと親しくなり、メイちゃんと友だちになりました。道で会うと、遊びます。

朝五時過ぎ、メイちゃんがご主人に連れられて、二百メートルほど向こうを歩いていきます。ぼくは手を振り上げました。

メイちゃんは僕を見つけ、立ち止まり、ちょこんとこちらを向いてお座りをしました。

ご主人は、会釈して、メイちゃんを促して去っていきました。