気づかない水不足


 昨日は一日中風が吹き荒れた。今日は昨日の風がうそのように、穏やかに晴れた。夜中に少し雨が降ったようだ。
サツマイモの苗を植えに、今朝クルミの木の畑へ行った。
草を欠き、畝をたててサツマイモのつるを差し込んでいった。気温がぐんぐん上がっている。汗ばんできた。
 「おはようございます」
 遠くから声が聞こえた。
 クルミの木の家の庭に立って、おばさんが叫んでいる。
 「昨日はひどい風だったねえ」
 「ひどかったですねえ」
 「今日は、暑い日だねえ」
 「暑いですねえ」
 「うちの人、仕事する気になれん言うて」
 「あの風のときは、やる気が起きなかったですよー」
 「そうだねえ」
 あいさつ交わしてから、またサツマイモ植えて、最後に水やり。
 空気が乾燥して、土も乾燥して、水やりした水もすぐ乾いてしまう。
 工房の裏、南側の日当たりのいいところに小玉スイカの苗を3本植えた。
 まだ遅霜が降りる危険があるから、苗に袋をかけた。鶏糞袋を筒状にして、支柱4本をスイカの苗の周りに四角に立てて、筒状の袋をかぶせる。苗の上が空に向かって開いていて、熱がこもらず、寒さや霜を防いで、風も防げて。
今日は26度にも気温が上がったらしい。夏日だ。
 ピンクのバラが新芽をふいていたのだが、3分の1ほど新芽が枯れているのを発見。
 これは水不足じゃないか、他の木々を観察してみる。
昨夜、雨が降った。これに人間はだまされる。考えてみるとこの4月から5月にかけて、決定的に雨が少ない。雨が降っても雨量が少なく、土の表面は濡れても下のほうへ浸透していない。去年植えたバラの苗木に水をやると、水はたちまち土に吸い込まれた。
 雨が降ったから大丈夫、こう思ってしまう。新緑が輝くとき、木々は水をたくさん土から吸い上げようとする。けれども土中の水分は足りていない。風がブンブン吹いて、フェーン現象になって、乾燥がひどい。こんなとき、木も土もからからだ。木は何も言葉にしない。葉っぱや花、枝の枯死で状況を伝えている。
 仕事が増えた。一輪車にタンクを載せて、近くの田んぼの水路に水を汲みに行く。
 ブナの木が3分の2ほど枝が枯れたのも、一昨年から水不足だったのだ。今年の新芽は脇枝から少し出ているだけだ。
 今朝6時前、かかしのおっちゃんの家の前で、おっちゃんとあいさつかわした。おっちゃんの家の藤の花を見ながら、今年は花が少ないと言う。我が家の木が何本も枯れてしまった話をした。「土だね。表土の下が石だらけで、保水力がないね」
 「そうですよ。それが原因だと思いますね」
 我が家の庭の下は昔、烏川の河川敷だった。烏川の流れは安曇野の中を移動した。そう言ったのはご近所の千尋さんだった。千尋さんは、地質学を研究していた。
 「寒さも関係していますよ」
 かかしのおっちゃんが言う。ここは標高600メートル近くある。
 「カラタチの木はたくさん私とこにあるよ。ほしければあげますよ」
 実ができて、いくらでも増える。
 夕方、せっせと水汲みに行って、主な木に水やりをした。
シャラ、白樺、ブルーベリー、ナツメ、ライラック、バラ、銀木犀、突抜き忍冬、梅花ウツギ、‥‥
スモークツリーは枯死していたが、根元から見えるか見えないほどの新芽が出ている。ナツメもそうだ。ひこばえが出てきた。命をつなぎとめている。