農の暮らし

 午前5時10分、朝のウォーキング出発。今日の目標は、烏川渓谷まで上って、右岸から橋を渡り、まだ歩いたことのない左岸の道を下ってくるというコースだ。野道を上っていくと、カカシのおっちゃんが何かを植えていた。
 「おはようございます。何植えてるんですか」
 見ると、ジャガイモが丸ごと一個ずつ、畝の穴に間隔を開けて置いてある。
 「今ジャガイモを植える時期でね。秋植えだね。」
 「今はジャガイモの収穫期でしょう? もう植えるんですか」
 「春植えは今収穫だね。でも秋植えは本来今植えるもんだがね。11月に収穫だね」
 ジャガイモは年に二度植えることができる、ということは知っているが、秋植えがこんなに早いとは思わなかった。勘が狂う。
 「畑あるかね」
 「小さなね」
 「これ植えるかね」
 おっちゃんは軽トラックの荷台に置いてあるバケツからジャガイモを3個取り出して、手渡してくれた。余り物のようだった。
 「植えた後に5センチほど土をかぶせて、その上にワラかなにかで覆うといいね」
 ジャガイモ3個をランちゃんバッグに入れて、また野の道を上っていった。
 野菜畑で世話している、ときどき見かける若い男性がいた。挨拶を交わす。仕事に出かける前の朝の畑仕事のようだ。田んぼの水見のお年寄りと挨拶を交わす。
 烏川渓谷の入り口でサルの吠え声がする。ランがその方に注意を払う。谷川にかかった橋を渡り対岸の遊歩道を上ると初めて入る道があった。砂利道だった。川を右に見て下っていく。牧場があった。そこからは一度歩いた道だった。アルプス公園が拡張され、北の出入り口が設けられていた。
 家を出てから1時間半ほどたっていた。家に帰る途中、カカシのおっちゃんの家の前で、再びおっちゃんに会った。またジャガイモの話になった。
 「ジャガイモはペーハー6か5.5ぐらいがいいんだよ。酸性ぎみの土壌がいいだね。石灰とかは入れないほうがいいね。本来、大地は酸性気味なんだね。だからピートモスなんかを入れるといいね」
 それは知らなかった。
 「あのジャガイモは出島という品種だよ」
 この名も初めて聞いた。
 約2時間のウォーキングから家に帰り着き、朝食。今日の段取りを考える。春植えたジャガイモの収穫を今日はもう取り掛からねば。葉も茎もみんな枯れている。天気のよい日を見て掘ろうと思いながら、その日その日の仕事を優先して後回しになり、今になった。
 9時前、クルミの木の畑に行く。黒豆は花をつけている。秀武さんから苗をもらった地這いトマトは実が赤くなったのがある。まず赤く熟したのを収穫、30個ほどあった。日差しがきつくなった。まだ緑の実がたくさんなっている。紫外線にやられた実は白くなり傷んでいる。草を鎌で刈り、その草をぱらぱらと実が陰になるようにかぶせた。日焼けを防ぐためだ。このトマトで洋子がトマトソースをつくる。
 この前草刈したばかりなのに、ジャガイモの畑は草がぼうぼう生えていた。ジャガイモを掘るには草を刈り取ったほうがいいと判断して草むしりをした。備中ぐわとコンテナを持って来ていたが、芋掘りは午前中に取り掛かれそうにない。気温が上がって、汗がしたたり落ちる。
 「暑くなってきたで、もう休みましょ」
 声がした。クルミの木の家の萩原のおばさんだ。ぼくが試し掘りしたジャガイモを見て、
 「いいのが入っているね。よくできてるね。黒豆もいいよ」
 ほめてもらった。結局午前中は掘るまでにいかなかった。
 午後、いちばん暑い時間帯を避けて、3時ごろから掘り始める。備中ぐわをつかって掘っていった。出てくる出てくる、ゴロゴロ、ゴロゴロ、豊作だ豊作だ。男爵と北あかりの2種類。
 夕方まで掘ったところで夕立が来そうになった。ポツポツ水滴が落ちてきた。遠くで雷が鳴っている。すべての畝を掘ることはできない。畝の5分の1ほどで、コンテナが芋で一杯になった。
 帰り道、スズちゃんのおばさんが、愛犬スズを連れて帰ってくるのに会った。
 「ジャガイモ掘ってきましたよ。男爵と北あかり」
 おばさん、車の荷台に載せたジャガイモを見て、
 「いいのが入っていましたねえ。北あかりはホクホクですよ」
 「どの芋が男爵で、どの芋が北あかりか分からなくなりましたよ」
 二人で大笑いした。
 家に帰りついたら、洋子が、
 「こんなキュウリがあったよ。びっくりするよ」
と見せてくれたのが、3本のキュウリが合体して1本になったもの。3本のお尻にまだ花がついている。どうしてこんなのができたのか、不思議。写真に撮った。
 6時すぎて、夕立が来た。