教え子からの手紙

 

 

 同窓生のつながりで、小説「夕映えのなかに」が伝わっていって、卒業してから連絡のなかった教え子から、「本を購入して読んでいる」という、うれしい便りが何通かあった。萬代君につたえたのが、紀子さんだった。

 紀子さんの手紙から、その一部。

 

 ――私の思い出は、遠足のときに、先生がアコーディオンの入った大きなリュックを背負ってきて、外でたくさん歌を歌ったことです。あの時覚えた歌は、今も口をついて出てきます。

 ホームルームで聞かせてくださった上高地の釜トンネルの怪談、もう半世紀以上の月日が経てしまったのですね。中学時代の人とのお付き合いはあまりありませんが、数年前、同級生だった藤井君、堅田君、細川君、福山君とお会いしたことがあり、その時の皆さんに「夕映えのなかに」の資料をコピーして送りました。

 もう十数年前になります。後山君が亡くなりました。残念です。でもこのことも、どこかでつながっていくことと思います。

 憂い事は絶えませんが、心だけは豊かでいたいと思っています。――

 

 「夕映えのなかに」では、アットンのニックネームで出てくる後山君が亡くなっていた。ああ、我が人生、彼らとあまりに疎遠でありすぎた。悔やむ。

 何らかの形で、残り続ける記憶。「夕映えのなかに」は、私の人生の功と罪の記録でもある。

 思い出した。そうだった、音楽の教員、萩さんからぼくはアコーデオンの手ほどきを受け、それを背負って遠足に出かけたのだった。秋の遠足は、箕面勝尾寺、寺の境内で生徒は輪になり、ぼくの下手なアコーデオンの伴奏で、「紅葉」を歌ったのだった。