イワオさんが亡くなった。近所に住み、この地区で長く、家の建具職人をしながら農業をやってきたイワちゃん。
一昨日、お通夜に行って、お別れしてきた。親戚や隣組の人たちが集まっておられた。
お通夜に行く前、ぼくはヒョイと思いついた、「歌をうたって、イワちゃんとお別れしてこよう」。
イワちゃんは村のコーラスの副代表もしていた。ぼくら夫婦がこの村に引っ越しをしてきたとき、イワちゃんがこんなことを言ってぼくを誘った。
「今コーラスは、男が私一人なんですよ。入ってくれませんか」
誘いを受けて、ぼくはコーラスに入って、一緒に歌った。
イワちゃんからはいろんなプレゼントももらった。
「柿の実、とれるだけ持って行くだ。干し柿にするだ。おいしいよ。」
「新米とれただ。どうぞどうぞ。」
こんなこともあった。農業の新規就農で、移住してきたタカオ君が、住むところがない。農家の空き納屋が借りれたので、そこに住んだ。畳の部屋はつくったが、トイレも風呂もない。それを聞いたぼくは、イワオさんに、
「要らなくなったガラスのサッシ、くれませんか。」
と事情を話すと、たくさんのガラスサッシをくれた。ぼくはそれを使って、納屋から外の簡易トイレまで波板の屋根を葺き、外廊下を作った。
イワオさんは人情が厚かった。お通夜で、イワちゃんにお別れの歌を歌ってこよう。そこにやってくるだろうコーラスのメンバーにも一緒に歌ってもらおう。
大急ぎで歌を決め、ボールペンで歌詞を走り書きをして数枚つくった。歌は「ふるさと」と、「はるかな友に」の二曲だ。
イワちゃんの家に着くと、喪主の息子さん夫婦に提案し、坊さんにもそのことを話してもらうと、「OK」。
納棺の儀の、お坊さんの読経のまえに、コーラスのメンバーだった五人が、眠っているかのようなイワちゃんの前に座って顔を見ながら、歌った。その五人のなかに、イワちゃんの奥さんと、息子さんの奥さん、佐保子さんが加わった。
誰もが知っている「ふるさと」、つづいて「遥かな友に」を歌う。
静かな夜更けに いつもいつも
思い出すのは おまえのこと
お休み 安らかに たどれ夢路
お休み 安らかに こよいもまた
明るい星の夜は はるかな空に
思い出すのは おまえのこと
お休み 安らかに たどれ夢路
お休み 安らかに こよいもまた
納棺の儀の前、お坊さんがおっしゃった。
「私は長く僧侶として、お通夜にも参らせていただきましたが、コーラスの入った通夜は初めてです。たいへん感動しました。」
イワちゃんの家族も一緒になって歌うことができた、別れの歌だった。