日本沈没 4

 

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 「日本を救え!」の叫びは世界を駆け巡り、街頭で募金や集会が行われた。しかし自分たちの国に、大量に受け入れねばならない難民への不安や疑問が、各国の国民の中にあった。小説は、その葛藤する心理も描く。また放射能の不安についても触れていた。

原子力発電所はすでに海面下数十メートルに沈んでしまっていた。何万トンもの高放射能核分裂生成物が流出していた。」

 

 小松左京は、2011年3月の東日本大震災に遭遇し、言葉を失うほどの衝撃を受け、それから心身ともに急速に衰え、ふさぎこむようになった。そしてその夏、緊急入院、二日後に亡くなった。

 「この国はどうなる?」、入院中に息子が左京に問うと、左京は「ユートピア」と答えたという。絶望状態にあった左京の心に、この国をユートピアにしなければならない、という切なる願望が生まれていたのだろう。

 

 「日本沈没」出版から50年、地震火山研究センターの山岡耕春教授は、

 「この小説を読むと、今も心拍数が早くなる。2011年の大震災の時の感覚がよみがえってくる。」

 と書いている。

 

 現代社会、コロナ蔓延の中、ニュースが伝える。アメリカで、アジア系の人への差別、暴力、攻撃が増えているという。それを行う人の中に黒人もいる。

 まさに差別の構造が現れているではないか。

 白人から差別され迫害される黒人が、その絶望やうっぷんのはけ口として、自分よりも弱い立場のものを差別迫害する。無知がそこには潜んでいる。同時に鬱屈した感情や怒りのはけ口が無い人たちの心のなかに、希望を失った自暴自棄の怒りの感情が渦巻いているということだ。生きることの困難な状態にある人たちにとっては、アジア系の人たちは、うっぷんをはらす対象となる。「出て行け!」

 「難民を救え」という声がある。その一方で、

 「難民のためにおれたちは生活できなくなる。」という声がある。

 この小説は、現代のテーマを著している。

 

 小松左京の小説のテーマ、「日本とは何か、日本人とは何か?」