オリンピックの異状

 ピョンチャン冬季オリンピックが終わり、これからパラリンピックが開催される。
 雪と氷の教義を観ていて、「よくやったねえ」と思うのは、世界からやってきたアスリートたちもそうだけど、韓国の人びとがこの大イベントを成功させるためにやりきった努力だった。雪を固めてコースをつくるのも大変なことだ。だが、日の当らないところで土台をつくってくれた人のことはニュースにならない。
 いくつかの異常も感じた。競技のあり方だ。雪と氷の大自然と戯れ、そこを舞台に人間が舞い滑り踊る。その醍醐味が冬季五輪の魅力なのに、「かるわざ」の「見せもの」という色彩が強くなっていることだった。狭い幅の鉄棒の上をそりで滑ったり、いろいろ難所をつくっているのが、まったく自然界での競技になじまない。アルペン競技は青空の下、雪上を走り滑り飛ぶのが競技者にとっても観客にとっても最高なのに、わざわざ夜に照明を点けてやっている不自然さ。スキーのジャンプがどうして真夜中なのか。どうしてそんな時間帯にやるのか。「天声人語」を読んで驚いた。ヨーロッパやアメリカのテレビ中継に合わせて競技時間を決めたというのだ。アメリカのNBCは、アメリカ国内向けの放映権を獲得しているという。国際オリンピック委員会の収入の4割を支払っているからだと。だから競技時間も宿舎選びも取材も、優位にある。
 金だ。金がものを言う。オリンピックも金次第。
 そしてまた、異常なまでに「メダルが最高」というメダル執着の価値観がテレビに蔓延していて、アナウンサーがメダルの数を叫ぶ。これは苦々しい。東京で、メダルをとったアスリートだけを「ひな壇」に並べ特別取材しているのを観ると、「戦果」を称賛する戦時の雰囲気を感じる。メダルを取れなくても、すがすがしく競技し、平和の使者をつとめた選手は多かったはずだ。競技者に差はない。「ひな壇」の選手は「応援してくださった国民の皆さんのおかげ」と述べてはいたが。
 久米宏が、東京オリンピックについて、こんなことを言っていたことを知った。

 <僕がオリンピックに反対する大きな理由は、これ以上、東京の一極集中は避けるべきと考えるからです。既にヒト、カネ、コンピューターが集まり過ぎ。オリンピックは日本中の財や富をさらに東京に集中させます。首都直下型地震が起きたら、日本の受けるダメージが甚大になる。この季節、東京はうだるような暑さが続いています。
 日本で開催するにしても東京だけは避けるべきなのに、ホント理解できません。競技を行うには暑すぎます。台風も来るし。日本にとって最悪の季節に開催するのは、アメリカ3大ネットワークのごり押しをIOCが聞き入れているだけ。今からでもIOCに10月に変えてと懇願すべきです。なぜ真夏開催でOKなのか。本当に聞きたいんです、組織委の森喜朗会長に。アンタは走らないからいいんだろ、バカなんじゃないのって。この季節の開催は非常識の極み。開催期間の3カ月ほどの後ろ倒しは、それほど無理な注文じゃないと思う。工事のスケジュールも楽になる。絶対に開会式は前回と同じ10月10日にすべき。
 オリンピック憲章の第1章6項1に『選手間の競争であり、国家間の競争ではない』、 第5章57項には『IOCとOCOG(オリンピック組織委員会)は国ごとの世界ランキングを作成してはならない』とある。どの国が何個メダルを取ったかの競争を禁じるようにしっかり明文化している。
 ところが、日本政府はもう東京五輪の目標メダル数を発表しているんです。JOCの発表は「金メダル数世界3位以内」。選手強化本部長は「東京五輪を大成功に導く義務があり、それにはメダルの数が必要」と言っています。ハッキリ言ってオリンピック憲章違反。国がメダルの数を競っちゃいけないのに、JOCがメダルの数を言い出す。
 世界は気付いたんですよ、五輪開催の無意味さを。ソウル大会以降、開催国の経済は皆、五輪後に大きく落ち込みました。リオも今酷い状況らしい。しょせん、オリンピックはゼネコンのお祭りですから。つまり利権の巣窟。一番危惧するのは、五輪後のことを真剣に考えている人が見当たらないこと。それこそ「オリオリ詐欺」で閉会式までのことしか誰も考えていない。国民が青ざめるのは祭りの後。いいんじゃないですか、詐欺に遭っている間は夢を見られますから。
 何で誰も反対と言わないのか不思議なんですよ。そんなに皆、賛成なのかと。僕は開会式が終わっても反対と言うつもりですから。今からでも遅くないって。最後の1人になっても反対します。でもね、大新聞もオリンピックの味方、大広告代理店もあちら側、僕はいつ粛清されても不思議ではありません。>

 東京オリンピックアメリカの札束がものを言ったのか。日本の財界の札束がものを言ったのか。
 東京オリンピック北京冬季オリンピックに向けて、日本のスポーツの純度と本質が問われる事態が進行することになるだろう。
 「ニッポン、ニッポン、ニッポン」、愛国行進曲が演奏され、選手育成国家総動員が叫ばれるのか。