弱点、ダメなところを乗り越える

 ずいぶん前になるが、NHKテレビに「課外授業」という番組があった。マジックをやっているマギー司郎が子どもたちに授業をした。
 マギー司郎が話しかける。
 「自分は子どもの頃から人前でものが言えないダメな人間だったんですよ。」
 中学卒業してからマジックの世界に入った。下手なマジックだったから、全く受けない。ストリップ劇場の前座でマジックをすることになり、やってみた。やっぱり受けない。がっかりした司郎は、ぽろりともらした。
「私もたいへんなんですよー」
 その一言が受けた。観客がどっと笑った。
 そこからマギー司郎は独自の世界を創っていく。トークをまじえたマジックは観客の笑いを生んだ。
 「課外授業」で司郎は、マジックを見せながら、自分の生い立ちを語っていった。子どもたちはぐんぐん引き込まれていった。話を吸い取っていくようだった。 
 司郎先生は宿題を出した。
 「自分のダメなところは何ですか。自分の何がダメですか。次の授業までに考えて紙に書いて出してください。」
 子どもたちは考え、書いた。けれどもそれを発表するのは恥ずかしい。できない。司郎先生は子どもたち一人一人と向き合って話し合った。
 先生の真情あふれる言葉に背中を押された子どもたちは、自分のダメなところを口に出し、発表することによって乗り越えていこうという気持ちになる。子どもたちは校舎の屋上に行った、そこで個々に、マジックの練習を繰り返しながら間のトークに、自分のダメなところを織り込んでいった。その真剣な表情には、大きな一歩を踏みだす勇気が滲みだしていた。
 練習が終わってから、司郎先生は言った。
「発表は隣のクラスに行ってやります。」
 さらに大きな壁だった。そこをも子どもたちは乗り越えて発表していく。
 一人ひとり発表し終えたとき、マギー司郎の目にも、子どもたちの目にも、涙があった。
 この授業は、数時間の飛び入りの授業であったが、計り知れない感動を与えた。弱い自分を認め、弱い自分を受け入れ、「こうあらねばならない、自分はできない、自分はダメだ」という観念に縛られていた自分を見つめ、そこから大きく育っていこうとする子どもたちの顔にはすがすがしい笑顔があった。
 自分そのままを、自分のありのままの人生を、子どもたちに見せたマジシャン・マギー司郎の愛情、子どもたちに注がれていた優しい笑顔が印象的だった。