大峰高原の大カエデ

 有明山のふもとにサワラの巨木の群生林があると聞いて、孫のホノちゃんを連れて家内と馬羅尾(ばろお)高原へ行ってみた。松川村ちひろ美術館から山へ入っていく。この夏に息子や孫たちとキャンプに来たところよりも、もっと奥に入った有明山麓と聞いていたから、高原の登り口の民家に立ち寄って、樹のことを聴いてみたら、そんな樹があったかねえと、頼りない返事だった。この季節あちこちでクマ出没の情報が出ている。今年は山の樹の実が少なく、クマが里へ下りてきているというのだ。巨木のあるところまでは徒歩で行かねばならないということも聴いていたから、巨木をたずねて山中に分け入ることは危険をともなうし、おまけに小学二年の孫娘を同伴となれば、これは冒険になると判断して、我らは方向転換して池田町の大峰高原の大カエデを見に行くことにした。

 これが二度目の大カエデ詣で。山道をくねくね車で走って登っていった。七色大カエデに到着したら、紅葉のしかけで、まだ緑が多く、すべての葉が色づくまでは日数を要するようだった。それでもカエデも見に来る人がぽつぽつ絶えず、テントを張って地元民の野菜や加工品の店も出ていた。腰の曲がりかけたおばあちゃんが、「まだ暖かいよ」と言いながら、オヤキ、オコワ、オデン、ミニトマト、卵焼きを販売していた。お昼までまだ一時間あったが、おばあちゃんが昨夜から作ったものだから買わずにはおれない。
 カエデの周りには半径10メートルほどの範囲にロープが張られていた。一本の大カエデ、この樹のおかげで、この周囲が憩いの広場になり、人びとの訪れる場になり、地元の村の収入源にもなっている。
 保育園児二十人ほどの集団が上がってきた。背中より大きなザックを担いで、それがお尻のあたりまでずれている。ふうふう言いながら歩いてくる姿を見ているだけで、笑いがこみ上げる。先生が数人付いている。子どもたちはザックを一か所に固めて置き、白樺林の林の上まで登ると、そこから先生の合図でいっせいに草地の坂を駆け下りてきた。

 不思議にワアワア叫んだりしない。幼児が坂を全速力で駆け下りる、これは普通危険なこととして避ける。下りを走るとスピードに脚が追い付かず、前のめりになってこけてしまう危険がある。頭、顔面から転倒。ところがこの子ら、こけない。一人二人、転倒したがまた起きて走り下りた。走り下りてきた子らはまた坂を登って上に行き、先生の合図で走り下りてくる。何回か繰り返した。
 やっぱり山の子だなあ。
「雨が降り テルテル坊主が 泣いても
わたしたちは 泣かないで 山を見つめる
山の子は 山の子は、みんな強いぞ」
という歌が頭に浮かんだ。