東北被災地に建設されているプロジェクト『森の長城』



 新聞の1ページ広告が目にとまった。紙面いっぱいに細川護煕さんの大きな写真姿。細川さんはしゃがんで苗樹を植えている。ジャンパー姿にモジャモジャの髪の毛、木綿の作業手袋をはめた右手に移植ゴテを持つ。表情はやさしく、おだやかだ。写真の後方に作業をしているらしい人たちの姿がうっすらとある。写真右上に、「災害からいのちを守る 森の長城プロジェクトを 応援してください。」の文字。細川さんはそのプロジェクトの理事長をしている。
 広告下部に、「森の防潮堤を築くために応援団を募集しています。」とあり、説明が書かれていた。
「森の長城プロジェクトでは、東北の被災地沿岸部で常緑広葉樹の種子を拾って、20〜30センチの苗木に育て、5m程度の高さの盛り土に植樹して、森の防潮堤を築いています。これまでに、宮城県福島県で、二万五千人以上のボランティアと地元住民の方々とともに、二十万本以上の苗木を植樹してきました。植樹する場所は拡大しつつあり、これまで以上に皆様のお支えを必要としています。災害からいのちを守る森を後世に残したい――。皆様のさらなるご協力をお願いします。」

 森の長城の断面図のようなのが説明のなかにあり、土盛りの上に樹が茂り、樹々が根を伸ばして長城をしっかりと固めている。そこに添えられた小さな文字を目を凝らしてみると、「津波の押し波を、多層構造の森が緑の壁となり、破砕効果で津波のエネルギーを減殺し、津波の引き波を、深根性直根性の根によって支えられ倒れない木々が、漂流する家や車を受け止め、沖に流されるのを食い止める」、と書かれている。その長城の盛り土(土塁)は、瓦礫と土砂を使っている。
 プロジェクトの名は、「公益財団法人 瓦礫を活かす森の長城プロジェクト」、以前もこの広告を見たことがあったが、今回改めて感慨深く受け止めている。
 熊本県知事をつとめ、首相にもなったことのある細川さん、福島原発事故後にふたたび反原発を掲げて姿を現した。ひたむきな行動力と、協力する人材の豊富さ、「志を立てて実行に移す」その人間性に感動する。
 細川さんが募集している応援団というのは、「1年間に苗木10本分(1万円)を5年間、計5万円を寄付していただく方」とある。
 中国の「万里の長城」になぞらえる「森の長城」、それにしても壮大な夢のプロジェクトだ。
 「『瓦礫を活かす森の長城プロジェクト』を応援する市民ネットワーク」のHPには、2012/2/1 の日本経済新聞のインタビュー記事が紹介されており、プロジェクトの副理事長、84歳の横浜国大名誉教授の宮脇昭氏が語っている。概要は、
「震災で生じた廃木材やコンクリートと土を混ぜ、かまぼこ状の土塁を築く。そこに、その土地の本来の樹種である木の苗を植えていけば、10〜20年で防災・環境保全林が海岸に沿って生まれる。この森では樹木は世代交代しても、森全体として9000年は長持ちする生態系になる。将来再び巨大津波が襲来しても、森は津波のエネルギーを吸収する。東北地方の潜在自然植生であるタブノキやカシ、シイ類などは根が真っすぐに 深く地下に入る直根性・深根性の木であるため容易に倒れず波砕効果を持つ。背後の市街地の被害を和らげ、引き波に対してはフェンスとなって海に流される人の命を救うこともできる。東北の海岸線に南北300〜400キロ、幅30〜100メートルほどの鎮守の森。それが完成すれば、緑の防波堤となり、鎮魂の場になり、緑を満喫できる自然公園にもなる。
がれきを利用した復興の事例はたくさんある。第2次世界大戦後の復興でドイツやオランダでは公園づくりにがれきを利用した。身近な例では横浜の山下公園関東大震災のがれきを埋め立てて復興のシンボルにした。
 6000年にわたって守り続けてきた鎮守の森の知恵を生かし、9000年はもつ命の森をつくり、二度と津波で多くの人命が失われないようにしなければならない。世界にも例がない先見的な試みをやってのけたときに、世界の人たちは『さすが日本人』と言うに違いない。
 南北300〜400キロの植林用のマウンド(土塁)を築く費用、9000万本の苗木代など多額の費用がかかるが、ガレキの広域処理をやめて地元処理にするだけで、1兆円の予算が半額の5000億円で足りるとも言われている。そうすると残りの5000億円を「森の防波堤」づくりに活用できる。
 南北300〜400kmの壮大な「森の長城」は、植林や苗木の生育段階から観光資源となり、5年10年と森が成長するほどに「壮大な森の長城」を見にくる観光客が日本全国、世界中から集まってくるだろう。
 原発事故を起こして、子どもたちや未来世代が生きていく環境を放射能で汚染してしまった私たち大人世代は、今、自分たち自身のことよりも子どもたちの未来を少しでも明るいものにするために、できるだけの努力をしたい。できるだけ多くの日本人と世界の人々が一緒にチャレンジしてくれることを願っている。」
 とてつもないアイデアを画いた人がいた。それを実現に向けて動かす人が生まれた。協力する人の大輪ができた。かつてない歴史が創られつつある。
来年、2016年の計画を見ると、
福島県南相馬市、予定本数2万本、
宮城県岩沼市、予定本数10万本、
岩手県山田町、予定本数6千本、
福島県相馬市、予定本数6千本、
であると。