地球宿の5周年イベントと絵本『りんご畑の12か月』

 安曇野地球宿の5周年イベントが地球宿であった。昼間から夜更けまでの各種プログラム、そのなかで絵本『りんご畑の12か月』(講談社)の出版を祝うトークライブがおこなわれた。絵本は、松村暁生君の「おぐらやま農場」が舞台になっている。文章は、美術評論家で作家の松本猛さんが創作した。絵は、その農場で働いている中武ひでみつさんが描いた。
会場は、地球宿の畳の部屋ふたつと居間のふすまを取り払って、座布団を敷いた。参加者は40人ほどだ。
この絵本ができた経緯を松本さんが話した。暁生君の農場へリンゴを買いに行って聴いた話、それが創作のきっかけになった。リンゴにかける情熱と夢、それを聴いていてストーリィが浮かび、そこで働いている秀さんの絵を見て創作絵本の可能性がひらめいた。秀さんはイラストレーターで、いつかは絵本を描きたいという夢を持っていたことがつながったのだった。
絵本のページは、スクリーンに映され、トークは、松本さん、中武さん、暁生君の三人のやりとりで進んでいった。
リンゴをつくる12ヶ月はどんな12ヶ月なのか、絵本の最初のページを開く。雪を頂く北アルプスの連山に、夜明けがやってくる。まだ夜の底が青い。犀川から安曇野はブルーのなかにあり、その空を白鳥が列を作って飛んでいる。ページを繰っていくと、雪の上での剪定作業、春の開花、摘果作業、夏の草対策と話は、東京に住んでいるだいちゃんという子どもへの手紙形式で続いていく。


途中のページに、農場の草原に寝転んで、銀河を眺めている絵があった。リンゴの樹は黒々と、空は濃紺に無数の星が輝いている。暁生君の好きな宮沢賢治の世界だなと思った。
制作の過程で、松本さんは一度物語を白紙に戻し、秀さんは何度も絵を書き直した。絵はどんどんよくなっていった。夢と情熱と人柄が煮詰まった絵本が、こうして完成した。トークの最後に、暁生君と大工の慶太君がギターを抱えて歌った。暁生君の作詞作曲した「おぐらやまの歌」。ここに集う若い者たちのロマンを凝縮した歌でもある。ぼくは、暁生君の声を聴いていて、誰かの声に似ているなあと考えていた。その名前が頭に浮かんだ。カントリーソングを歌ったアメリカのジョン・デンバーだ。
秀さんは初絵本の夢が実現した。暁生君はゼロから出発して、古い小さな農家を買い、農地を借り、世界からのウーファーに来てもらって、おぐらやま農場を創ってきた。5周年を迎えた望三郎君も、「人と人とがつながる地球宿」を創りたいという夢を追ってやってきて、農体験もできる農家民宿を実現した。
松本さんがこんなことを話した。信州ではIターンして農業に従事する若い人が他県に比べて多い。けれども数年して挫折していく人も多い。ところが、この地域は若い人たちはそうならず、元気だ。それはなぜか。


望三郎君が一言、つながりがあるからでしょうねと答えた。すると、松本さんは、ネットワークが生まれているんですねとうなずいた。青年から老年までの、人のつながりがある。それは、自然につながっているのではなく、つながりを作ってきたということでもある。望三郎君も、古い農家を借りて、つながってきた人たちの支援を受けてきた。支援し支援され、励まし励まされ、祝福を送り祝福を送られてきた。そういう人の輪が、輪に入ってくる新しい人の夢実現へと情熱をかきたてる。
安曇野のジョンデンバー、暁生君の歌の最後に、賢治の言葉が出てくる。それは「ポラーノの広場のうた」の第二連である。
   まさしきねがいに いさかうとも
   銀河のかなたに ともにわらい
   なべてのなやみを たきぎともしつつ
   はえある世界を ともにつくらん

その夜のイベントにはぼくは参加できなかった。夜は、ライブ『地球宿音頭』・安曇野ジャグバンド、みんなでフリートーク『地球宿のこれからを描く!』と、夜更けまで続いたようだった。