ぶらぶら白馬


 朝から白馬へ行く。昨日、塩の道ウォークに行かなかったから、今日は二人で白馬を歩こうと、新しい運動靴を履いて、防寒着をザックに入れて。
 ちひろ美術館前を通り抜け、大町に入り、木崎湖前から白馬へ一直線。道路が昔と違ってりっぱになっていた。長野オリンピックで進んだインフラ整備だ。さの坂を越えたら、日が輝き、ひんやりと山の空気になった。
 今日はどこを歩くかあてはない。とりあえず八方尾根に行ってみた。途中の駐車場に車を置いて、歩いていった。ゴンドラまでの街は、ホテル、ペンション、旅館、レストランなどが建ち、きれいに整備され落ち着いた雰囲気だ。
 「昔、ここを白馬の駅まで、滑っていったよ」
 積雪期、唐松岳から下りてきて、スキーで駅まで滑ったことがあった。当時はゴンドラもこんな街もなく、辺りは一面の銀世界だった。農村集落はところどころにあり、2、3軒の旅館はあった。この地は民宿の発祥の地でもある。その後、四谷駅は白馬駅と改名された。
 「白馬岳も唐松岳も、駅から重い荷を背負って歩いて登ったものだ」
 「ゴンドラで終点まで上がってみよか」
となって、一枚ジャンバーを着こんでゴンドラにのった。山は次第に晴れてきて白馬、杓子、白馬鑓の三山から五竜岳鹿島槍の尖峰が姿を現した。ゴンドラを降りたところが、ウサギ平。この辺りは黒菱スキー場だったなあ、雪洞を掘って泊まりながら頂上を目指したところだなあ、となつかしく思い出しては述懐する。ざらめ雪の斜面をスキーヤーがたくさん滑っている。

 「ここ、ウナギ平かと思っていたら、ウサギ平なんやね」
洋子が言う。ウサギがウナギに見えたらしい。
 山の写真を撮って、またゴンドラで下る。
 「ベレット食べようか」
 「ベレットじゃない、ガレット」
 「そうか、ガレットか」
 「インフォメーションで聞いてみよう」
 案内のおばさんが店を紹介してくれる。地図を出してきて、ぺらぺら早口。
「ここのダメージでもつくってくれるし‥‥」
「ダメージ?」
「ガネーシュです」
「この店のモヒカンでも‥‥」
「モヒカン?」
「東館です」
 ヒガシカンがモヒカンに聞こえた。
 地図をもらって、それを頼りに、
 「べつにガレットでなくてもいいじゃない。何か食べよう」
 地図はマンガチックに書いてある。店の説明が吹き出しになっていて、字が虫眼鏡でないと見えないほど小さい。
 「こづくり ごりょんさん ようこさへん」
 なんじゃ、これ。
 よくよく見たら、「手づくり ごはんやさん ようこさん」、
ここにしよ。
 ということになって、二人でてくてく歩いていったら、行っても行っても着きそうにない。
 「遠いねえ、じゃあもう、ここにコンビニあるから弁当買って食べよう」
と意思統一。コンビニ弁当を温めてもらって、近くの畑の畦に座って食べた。
 風が冷たい。
 山がきれいに見え出した。大雪渓から流れ落ちてくる川原に、カメラの砲列が並んでいた。