虫の聴覚

 地球宿へリーフレットを取りに行く。そのついでに農協の精米所に立ち寄って、米ぬかをもらっていくことにした。精米したときに出る米ぬかを、精米した人が持って帰らないで残っていることが多い。それをただでもらう。行ってみると、精米機の隣の米ぬか小屋から人が出てきた。ぼくより先に取りに来た人のようで、その人が帰った後、見てみると米ぬかはきれいさっぱり残っていなかった。今日は残念。また取りに来よう。米ぬかは、肥料や、生ゴミの発酵分解処理に使っている。
 ふと「緑のお店」をのぞく気になった。リンゴが出ているかもしれない。いくらぐらいの値段で出ているかなと店に入ると、目の前に、「雹害リンゴ つがる」と書いた箱入りがあった。あられの大型、雹(ひょう)が降り、リンゴを傷つけた、それを格安で売ります、という商品だ。大きさも色も、傷の程度もさまざまなリンゴが箱に詰められ、数えると19個あった。それで1300円と書かれている。毎朝家内は、野菜ジュースをつくるのにリンゴを1個入れている。ちょうどそれに使えるなあ、と思いつき、買うことにした。農家にとっては雹が降って大損をするところだが、こうして商品にして売ることも出来て助かる。買うほうは少し傷があっても安く買えてよかった、と感じる。土地の生産物を土地の住民が買う関係だからできることだ。
 地球宿へ行く途中、リンゴ畑の中を通っていく。もう真っ赤に色づいたのも、まだ青いのも、いろんな種類のリンゴが木に成っていて、これから順次12月まで収穫がつづく。
 地球宿の前に、望君の顔写真の入った看板が出ていた。
 「市民とともに歩む政治に。若い力を送り込み、市政を変えよう」、この目標に向けて、いま望君を支えるたくさんの若者、お母さん、農家の人たちが、一軒一軒に、望君の意見と人となりを書いたリーフレットを配っている。これまでにない勢いだ。ぼくも、リーフレットを昨日は150軒のポストに入れた。
 地球宿にはひとり女性がいて、お昼の食事の準備をしているようだった。後はだれもいない。みんな地域に出て行ったのだろう。
 「リーレットを100部持って帰ります」と、置いてあるノートに書いて、山麓線を家に帰った。
 今日は学校の授業がないので、草刈をする。円盤を紐式に換えた草刈機で、畦や庭の草を刈る。刈っているとき、刈り払いのエンジン音がするのに、シオカラトンボが近寄ってきて、体の回りを飛ぶ。刈り取る草の小片が飛び散るのを、虫だと思って近寄ってくるのだろう。音には無関心なのか、あるいは聴覚がないのか。草むらのなかにいたコオロギは、草刈機が近寄っていくと察知して逃げ出していく。そうすると、コオロギは、振動を敏感にキャッチするのか、音を感じ取るのか。コオロギは翅を震わせて音を出し、メスを呼んでいるから、聴覚があるのではないかな、とも思う。昆虫の感覚を調べてみたい。
 お隣のひとり暮らしのミヨばあちゃんが、庭の木が隣の畑に越境しているのを伐っていて、SOSを発していたから、ぼくが代わって伐った。
 「やっぱり男の人がいないとダメだね」
というミヨさん、
 「こんな木を伐る木になって、元気がもどってきたねえ」
 「マミの散歩を頼んでいた宮田さんが来れなくなったで、私が行かなければと思って、命がけで歩いたでね。それで元気になっただね。今日はあの神社まで行ってきただ」
 「マミのおかげだね」
 「マミのおかげだよ」