[山] 常念岳で出会った人


 久しぶりの北アルプスに登り、たくさんの若い登山者たちに出会った。これまで聞いたり読んだりしてきた、高齢者ばかりという情報とは違う新鮮な印象だった。
 高校生ぐらいの若いグループに何組か会った。6、7人のパーティに先生らしき人はいない。男たちのなかに女の子が一人まじっているパーティもあった。登山部とか山岳部とかのサークルまではいかない感じ、いったいどういう会なのかなと思う。
 家族登山者も多かった。若いカップル、老年カップル、子どもが小学生、あるいは中学生、高校生といろいろあった。お母さんが、子どもを何人か連れてきている家族もあった。父親がつれて来ている家族もいた。男性の単独行はよく見かけるが、若い女性の単独行の人も何人かいた。

 頂上に向かう途中、そして下山の途中で、抜いたり抜かされたりした3人家族があった。父母は50代か還暦を過ぎた感じ、息子は高校生か大学生ぐらいだった。お父さんはいちばん年長だったが、トップを登っていた。息子は少し遅れ気味、お母さんは少し肥満体で、下りでは脚を傷めている様子、バランスを崩して岩場で滑ることが目立った。山小屋から一の沢の下りに入り、ぼくらは追い抜いてから、もう出会うことはなかった。登山口に到着することができるかどうか、お母さんの脚力と疲労の状態から非常に危ぶまれた。
 頂上から小屋のほうに下山してきた時、登ってきたひとりの男性が声をかけてきた。彼はマイカーでやってきて、登山口から早朝に登り始め、4時間足らずでここまで来たと言った。日帰りで帰るという。
「そりゃ、すごい脚ですね。早いペースですよ」
と言うと、男は謙遜しながら、40代から登山を始め、今は50の初め、アルプスは初めてとのことだった。
「槍がすごいですねえ。一日でも眺めていたいですねえ」
いつか槍ヶ岳まで行きたい、けれど一泊ではいけないからと言うから、上高地から槍沢を登り、槍の肩の小屋で一泊して、翌朝頂上をアタックして下れば、一泊で登山できますよ、と応えた。小屋から一の沢に下っていると、やあと挨拶をして追い抜いていく男がいた。それが例の男だった。頂上に登り、もう下っている。群馬の前橋から来たそうだ。男は少し話を交わすとたちまち飛ぶように下っていった。
 スタイルではストックをつく人が多い。1本ストックの人と、2本ストックの人がいる。ぼくも6年前、涸沢に入ったとき息子の嫁のリエちゃんからストックを借りた。それがなかなかよかった。すると、その後、息子夫婦はストックを父の日に贈ってくれた。そのストックをついての登山だった。