麻生副総理の発言が問題になっている。
「憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。」
麻生氏が引き合いに出したのは、第二次大戦前の、当時としてはもっとも民主的で模範的といわれたワイマール憲法が、民主主義を否定するナチスに支配されてしまったということ。
ワイマール憲法は、第一次世界大戦に敗北したドイツが、ワイマールの国民議会で制定した憲法である。直接選挙による大統領の権限の強化、直接民主制の採用、社会的基本権の保障などの特色がある。
ナチスはワイマール憲法に基づいて民主的に選挙で選ばれ、議会で多数派となると、全権委任法をはじめとする民主主義を否定する法律を次々に議会で可決させ、いつの間にかワイマール憲法を機能しないようにしてしまった。ヒトラーが政権をにぎるとワイマール憲法は実質的に廃止となった。
麻生氏の発言をめぐって、安倍・麻生政権の魂胆、麻生氏の認識不足など批判が持ち上がっている。議論を深めることは歴史認識を深めることにつながるだろうから、学究的に過去の日本の歴史を含めた国民的議論を深めてほしいものだ。
ドイツの反ナチスの詩人、ブレヒト(1898〜1956)に、「ワイマール憲法義解」という詩がある。その一部をここに紹介しよう。1931年の作である。この詩が書かれてから2年後、第二次世界大戦が勃発した。
ワイマール憲法義解
<第一条>
国家の権力は国民から出る。
――だが出てからどこへ行く?
そう、いったいどこへ行く?
ともかくどこかへは行く!
警官が建物からぞろぞろ出る。
――だが出てからどこへ行く?
そう、いったいどこへ行く?
ともかくどこかへは行く!
みたまえ、でっかいむれが行進する。
――だがどこへ行進する?
そう、どこへ行進する?
ま、どこかへ行進する!
いま建物をまわってジグザグする。
――だがジグザグしてどこへ?
そう、ジグザグしてどこへ?
ま、ジグザグしてどこかへ!
寸時、国家の権力はめくらめく。
なにかが立ちならんでる。
――なにが、そこにならんでる?
――まあ、なにかがならんでる。
と、にわかに国家の権力がわめく、
わめく、即時解散だ!
――なんで即時解散だ?
だまれ、即時解散だ!
が、なにかはイゼンそこに存在する。
なぜ? とそのなにかが言う。
――なぜ、あいつがなぜと言う?
あんなやつがなぜと言う!
で、国家の権力は発砲する、
と、そのなにかが倒れる。
いったいなにが倒れる?
なぜまたすぐに倒れる?
なにかはよこたわる、どさっと倒れて。
どろまみれでよこたわる!
なにが、なにがよこたわる?
なにものかがよこたわる。
なにかがそこによこたわる、こときれて。
だが、それこそは国民!
ほんとにそれが国民?
そうだ、ほんとに国民。
ブレヒトは、ヒトラーが政権をとった1933年国外に亡命した。
国民は政治権力を何ものかに委託した。委託された権力者は、思いのままに権力をふるい、国民を抑圧した。国民よ、しっかりしろ。