放射性物質の野鳥への影響

 日本野鳥の会からモニターに送られてきた英国製の素焼きの巣、我が家の軒にある以前のツバメの巣の横に取り付けたが、結局ツバメはそれに営巣しなかった。どうして巣を作らなかったのだろう。人工的な巣だからツバメは警戒したのか、ツバメの個体数が減っていたからだろうか、あるいは巣作りできる適地でなかったからだろうか。
 野鳥の会から機関紙「野鳥 8月号」が送られてきた。そのなかに、「解明したい! 放射性物質の野鳥への影響」という記事があった。
 「放射性物質が野生生物にどのような影響をおよぼすのか――見過ごせない現象がいま、現地のツバメに起きています。チェルノブイリ原発事故のあとに、放射性物質によって、羽毛の一部が白化する突然変異や尾羽の不均一が鳥類(とくにツバメに顕著)に起きたことから、日本野鳥の会では福島でも同じようなことが起きるのではないかと危惧し、昨年から注視してきました。」
 記事は、自然保護室チーフの山本裕氏へのインタビューである。
 山本氏たちメンバーが調査を始めたのは震災から一ヶ月後、福島原発の周辺に足を踏み入れての調査だった。事実を探求せずにはおかない、命がけの行動である。研究者たちの執念をここに見る。
 野鳥の会宮城県会員から、尾羽の片方が短いツバメが複数いるという情報が入ったのは震災の翌年7月、つづいて福島の会員から部分白化したツバメの情報。そして今年の繁殖期、のどに白斑のあるツバメが多数見つかる。
 チェルノブイリの野鳥を調査したフランスの鳥類学者・メラー博士とアメリカのムソー博士の研究によると、放射線量が高いほど、あざやかな羽色の元になり、免疫機能を高める「カロチノイド」がツバメの体内で減っていた。
 山本氏がこう述べている。
 「渡り鳥と留鳥では、渡り鳥のほうに影響がより出ています。鳥が渡る際には非常に大きなエネルギーを使います。渡ってきた直後、環境中の放射線量が高いと、カロチノイドを使い切り、免疫機能が弱っている鳥は死亡する割合が高くなります。福島でも、ツバメをはじめとする夏鳥については、今後も注視していく必要がありますね。チェルノブイリでは、ヌマヨシキリやチフチャフなどといった体の割には大きな卵を産む鳥も生息数が減少しています。卵を産むには、大量のカロチノイドを使うからかもしれません。」
 山本氏たちの調査では、福島県内で観察した繁殖行動をしている親鳥81羽のうち、部分白化個体が8羽、割合は9.9パーセントだった。チェルノブイリでは10から15パーセントだった。ツバメは泥やワラを使って巣を作る。その材料は放射性物質を吸着しやすい。   
 調査研究は一刻もなおざりにされることなく続けられる。山本氏は、当面の調査は20年ぐらい続けるべきだという。そして生命の地球の永続を考えてなすべきことは無限である。
 政治と経済界では、原発事故はもう過ぎ去ったかのように、原発推進に軸足を移している。目先のことばかりだ。
 一つの企業の海に排出した廃液は、水俣病となって半世紀を超え、今も続いている。原発の被害は、人類と環境を蝕んでどこまで広がり続いていくのだろう。