猛暑を避けて昼は休んで、朝と夕方に仕事をしよう

大庄屋・山口家


 地区の公園の草取りは、区のみんなで行なう。恒例の行事は先の日曜日だった。朝8時から開始という回覧が回っていたから、5分ほど前にぼくも鎌をもって出かけると、公園はすでに人でいっぱいだった。あれれ、時間を間違えたか、と一瞬思ったが、これはいつものこと、集合時間よりも早く集まるというのがこの区の気風だ。
 公園のグラウンドの小草は、数十人がしゃがんで、小さな草欠き道具や鎌を使ってとっている。数人がおしゃべりしながら、あるいは家族がそろって、ひとりぽつんと草むしりしている人もいる。グラウンド周囲の花壇は、イネ科の草がぼうぼうと伸びていたから、そこは数人が円盤の刈払い機をぶんぶん回している。
 午前8時は太陽は高く上がって、日差しがきつい。
 この季節になると、イネ科の草には実ができている。その実が落ちて繁殖が広がる。だから草刈は実ができる前にやったほうがいいのだが、今年はちょっと遅かった。鉄の円盤を回転させる刈払い機なら、成育したイネ科の草の強靭な茎も刈れる。だが、ぼくの草刈機は、円盤をはずして、合成樹脂の2本の短い紐を高速で回転させるのに交換してある。これだと、硬い茎はなかなか刈れない。柔らかい草だと、地面からきれいに刈れる。ぼくは、イネ科の草は鉄の円盤に任せて、刈り取った草を立ち木の根元に集める作業をした。
 暑くなってきた。
 この地区の社会福祉協議会の長をやっているAさんと雑談を交わした。
 「今晩、地区社協の集まりですね。午後6時半開会でしたね」
 地区の、夜の会議は、7時か7時半を開会時刻にしている。6時半はちょっと早いと思う。Aさんは困ったような表情になった。
 「そうです。早く始めて早く終わったほうがいいと思ったんですけど、苦情が殺到ですよ。えらい叱られましてね。6時半というのは、まだ野良で仕事をしている、そんな時間に行けるかというわけですよ」
 なるほど、日が長くなり、7時ごろでもまだ野良で仕事をしている人が多い。今この時季、今日やらねばならないという農作業が多い。太陽が沈んでも明るいうちは仕事ができる。それを完了して今日の一日は終わりになる、それが農の暮らしである。
 それからまた数日猛暑が続いた。
 今朝、ぼくは4時半ごろ目が覚めた。そうだ、黒豆の畑の草欠きに行こうとひらめく。ウォーキングを草欠きに切り替えだ。黒豆畑の草は気になりながら、放置してきた。今朝はウォーキングよりも草取りだ。
 早朝はすがすがしく涼しい。日の出は4時50分ごろだ。鍬を持ち、ランをつれてクルミの木の畑に行く。ランを道の際につなぎ、畑を観察すると、短い草がびっしり生えている。三角鍬で草を削り取る。ランが吠える。新聞配達のおじさんが自転車で通り過ぎる。畑の隣のKさんのおばさんが石を一輪車に積んで運んできた。
 「おはようございます」
 挨拶を交わす。石は畑から出てきたもので、残土置き場へ運んでいるのだ。
 「おはようさんです」
 クルミの木のある庭から声が飛んできた。Hさんのおばさんだ。畑仕事をしている。鶏の声も聞こえる。
 草取りをして、ランと一緒に家に帰ったら7時だった。
 早朝と夕方の時間帯は仕事の時間帯、酷暑の日中は昼休みの時間帯だ。イタリアでは昼休みは午後1時から4時半とか4時までとか、それが日常になっている。