焼け跡に新憲法 <絶望・苦悩の中に芽生える希望 2> 


 1946年公布、1947年5月3日施行された日本国憲法を当時国民はどのように受け止めただろう。「昭和万葉集」(講談社)から歌を拾い出してみる。

     われらとはに 戦はざらむ かく誓ひ 干戈(かんか)はすてつ 人類のため

 「われらは、永久に戦争をしないだろう、こう誓って武器を捨てた。人類のために」。干戈(かんか)は、たてとほこ、武器の意味である。転じていくさの意味でも使われる。

     まつりごと わが手にありと こぞり起つ 民のちからは つよくさやけし

 「政治は私の手にあるのだと、国民みんなこぞって起ち上がってきた。民の力は強く、はっきりとしていて、さわやかである」。

     明治にうまれ 昭和に生きて われらみつ まさにわれらの この現実を

 「明治に生まれ昭和に生きてきた私たちは見た。まさに私たちのこの現実なのだ」。人びとの見た現実はまさに動顛の現実、戦争のすさまじさと、敗戦の巨大激震と、戦後の民主化の大転換であった。

     たたかひに やぶれて得たる 自由をもて とはにたたかはぬ 国をおこさむ

 「戦争に敗れて得た自由、その自由をもって永久に戦争をしない国を興そう」、この一連の歌は、土岐善麿の作である。

     うれしくも 国の掟のさだまりて あけゆく空のごとくもあるかな

 昭和天皇の歌である。「うれしいことに国の掟が定まって、明けてゆく空のようであるよ」。

     憲法 成りたるときの 国会の 一瞬のしじま 忘れて思へや

 1946年、法制局長官となり、日本国憲法の立案責任者となった入江俊郎の作である。国会で新憲法が成立したときの、一瞬の静寂、議員は全員、息を呑み声なし。歴史の大転換の一瞬であった。その沈黙の一瞬にすべての人の胸にきわまる想いがあった。あのしじまを思い忘れることがあろうか。

     やけあとの つちもめぶきて あをみたり ほこなき国を はるふかみつつ

 国語学者金田一京助の歌。焼け跡の土からも植物は芽を出してきた。青々と芽吹く草木は、新しい国の芽吹きでもある。この国は、ほこ(武器)をもたない国、希望の春が深まっていく。新しい国づくりに燃える思いがある。

     初投票の 女性の列は 麦青き 校庭めぐりて ながく続けり

 新憲法ができて、女性にも選挙権が認められた。明治から婦人参政権の獲得をめざして運動してきた女性たちがいる。その運動がやっと新しい国になって実現したのだった。女性たちは、投票所へ向かう。地区の学校が投票所となっていた。麦が青々と育っている。婦人の列は校庭をぐるっと回るように長く続いていた。国の半分を占める女性が政治に参加できない時代が終わった。それから67年がたつ。今の日本の政治の世界に、女性はどれだけ参加できているだろうか。衆議院では女性議員は7.9パーセント、世界のなかでは122番目である。21世紀のこれからは、数字の問題ではなく、7.9が50になるという結果も含めて、政治の質が開眼した国民による政治に変わるときに、新たな国が生まれてくることになるだろう。