ルソーが戦争論を書いていたのを知らなかった。加藤陽子(東大教授)の著書「それでも日本人は『戦争』を選んだ」(朝日出版社)で、加藤はこんなことを書いている。
「戦争のもたらす根源的な問題は、ルソーが考えた問題でした。ルソーの論文は日本語訳がなかったこともあって、私はつい最近まで知らなかったのです。長谷部恭男の『憲法とは何か』(岩波書店)を読んで、まさに目からウロコが落ちるというほどの驚きと面白さを味わいました。」
長谷部は、ルソーの「戦争および戦争状態論」という論文に注目した。そこに言う。
「戦争は国家と国家の関係において、主権や社会契約に対する攻撃、つまり敵対する国家の憲法に対する攻撃、というかたちをとる。」
なるほど、アジア太平洋戦争に敗北し、アメリカ占領軍が日本を支配した時、その支配の仕方は、間接統治という形をとった。すなわち絶対君主制の明治憲法を廃棄し、転換することを日本国民に求めたのだった。
ふーん、ルソーという思想家はすごい人だ。18世紀の人が、19世紀、20世紀の戦争の本質を見通していたとは。
ルソーは考えた。戦争というのは、常備兵が3割ぐらい殺傷されても終わらない。王が降参しても終わらない。戦争の最終的な目的は相手国が最も大切だと思っている社会の基本秩序、すなわち広い意味での憲法と呼んでいるものの変容を迫るものである。
それが1945年、日本で現れた。日本は太平洋戦争で無条件降伏し、アメリカは大日本帝国憲法の、
すなわち日本の国のありかた、「国体」を変容し、新しい憲法へ転換することを日本国民に求めた。そして新しい日本の形が生まれ、戦後の変容がこの国をつくってきた。
アメリカの求めるもの、その元にあるのは、アメリカ南北戦争であがなった深い傷の代償であった。
「人民の、人民による、人民のための政治が、永久に地上から消え去ることがないように」。
この思想のもとにルソーがいた。
フランスの思想家、ルソーは、1712年生まれ、1778年に亡くなっている。