野の道



この道は、心の和む道です。
人と生き物だけが歩む、歩むものの足に柔らかな、
和草(にこぐさ)の萌えいづる小道です。
野の人の手が入り、整えられた野の道、草のじゅうたん、
この道は、野の人のこころです。
長い長い人の歴史が感じられる道です。


ウグイスが啼いた。あどけない初音。
幼心に聴いたウグイスの童謡は、幼心に聖なる歌に聴こえた。
ウグイスの声を知らないままに、
ウグイスの姿も見ることもなしに、
ウグイスが大好きになり、ウグイスに憧れ、
「ウメの小枝でウグイスが、
春が来たよと歌います、
ホーホーホケキョ ホーホケキョ」
とぼくは歌っていた。



カンゾウが新芽を出しています。
万葉の時代も、人は春の野に出て、若菜を摘みました。
なぜだか分からない。犬のランはナズナが好きです。
ナズナの白い花ごと、ランは羊のようにぽりぽりと引きちぎって食べます。
春の野草の生命力が、動物にも人間にも、力をあたえるのかもしれません。
フキノトウは、もう三度、テンプラにして食べました。
家内は、フキノトウ味噌を作りました。
炊き立ての白いご飯に、フキノトウ味噌を乗せて食べます。
今年もまたうれしい味です。




 
   枯野の細道
        高橋元吉


三日月傾く 枯野のなかの細道
流転のふるさとを しばし離れて
そぞろにあゆむ このほそみち
思ひきや ここにきたりて
のびやかに深く息づく われを見んとは

こころ春夜にとけて 遠くひびきゆく 鐘の音のごとく
また あまがけりゆく かりがねのごとく



高橋元吉は明治・大正・昭和にかけて生きた。内村鑑三を尊敬した無教会派のキリスト者でありながら、禅の道元親鸞に傾倒した。