夏休みの子どもキャンプ・「どあい冒険クラブ」


山手の集落を抜けて上りきったところから、山林の間をカーブして下る道路になった。少し下ると左に分岐する山道があり、急角度に曲って下りていく道の入り口から下の様子をうかがうと、どう見ても沢の底に通じる山道で、人家があるように思えない。
だが、話に聞いてきたのではこの道しかない。
軽自動車でおそるおそる下っていくと、意外なことに急斜面にへばりつくような人家が現れ、白い大きな犬が突然吠えた。
やっぱり大浜さんの家があった。
眺めると、家の前に鶏小屋があり、3、4羽のめんどりがコッコと鳴いている。
谷の幅はかなり広く、こんなところにと思える一反ほどの田んぼが家の下にあって青い稲が波打っており、川の流れはさらに田んぼの一段下にあるようで、木々にさえぎられて見えない。田んぼの上と下に、耕作していない土地がある。
上の畑に白いものがいた。山羊だった。
「大浜さんに、テントを持ってきました。」
出てきた奥さんに声をかけた。
大浜さんはここで「どあい冒険クラブ」を開いている。この沢を舞台にして、山、川、森で遊ぶ子どもキャンプだ。
田んぼの下には自然公園も造られていた。人の姿はない。そこが冒険クラブのキャンプ地だろうか。宿泊はすべてテント生活の「どあい冒険クラブ」だから、テントがたくさん必要になるだろうと、ぼくの家に眠っている3張りのテントを使ってもらうために持って来たのだった。


大浜さんと親しくなったのはこの夏だった。
福島の子どもたちを安曇野に招く企画を立てたとき、企画の推進役に最適だと思って声をかけたのが、「どあい冒険クラブ」の隊長、大浜さんだった。
放射能の危険にさらされた子どもたちを、安曇野の自然の中で遊ばせる企画の実践者として、大浜さんはうってつけだと思ったからだ。
「冒険クラブの夏の陣」と大浜さんの称するキャンプは、8月上旬の8泊9日、こちらの企画する福島のキャンプは7月下旬であったから、大浜さんの協力が期待できた。
大浜さんは、何の抵抗もなく気持ちよく引き受けてくれた。
「私たちの冒険クラブの後に、被災地の子どもを受け入れようかと考えていたんです。」
と、願ってもないことのように言う大浜さんの人柄にほれた。
ところが、結果として当初の福島キャンプは実施できなくなり、8月の社会福祉協議会主催の福島・南相馬の子ども企画「高原学校IN安曇野」になったために、期間が「どあい冒険クラブ」と重なり、大浜さんは「どあい冒険クラブ・夏の陣」の方に奮闘することになったのだ。


南相馬の子ども企画「高原学校IN安曇野」は、安曇野市民のおもてなしの心があふれて、もりだくさんのものになった。
後から考えてみて、結局短い日程の中に、行事を詰めすぎたきらいがある。
できるだけいろんな体験をさせたい、たくさんのことを楽しんでほしい、それがたくさんの行事になり、子どもたちをかえって受身にしたような感じもする。
企画はなしに、子どもたちが自分でやりたいことを考えて一日を遊ぶ、そういう普通の夏休みの暮らし、それが必要だったと思う。


「どあい冒険クラブ」には、ロッジとかの建物はない。雨が降ってもテントで暮らし、川で泳ぎ、魚をとり、森で昆虫をさがし、自ら遊びを生み出していく生活だ。
大浜さんがこんなふうに描いている。
「山あり、川あり、森もあります。 
草っ原をキャンプ場に変身させる『冒険楽校』です。
1泊2日から、最長8泊9日のコース。
楽しみ方はいろいろ。 自分が楽しめそうなところを選びます。
『遊ばせてもらう』だけのキャンプではありません。 
いっしょに考えて、いっしょに力を合わせてつくるキャンプです。 
ご飯もいっしょに作ります。
薪だって、いっしょに山から集めます。 
自分を強くするキャンプ。人にやさしくなれるキャンプ。
『どあい冒険くらぶ』は、主に小学生を対象にした野外活動・環境教育の団体です。
イベントたくさんの『遊んでちょうだいキャンプ』ではありません。
不便な環境で、知恵と思いやりを重ね、『生活』と『自然遊び』を大切にするキャンプです。」


黒沢山(2051m)から流れ出る黒沢川の上流に、大浜さん家族は住み、
食料はできるかぎり自給自足にし、米をつくり、山羊の乳でチーズをつくり、鶏の産む卵を食べ、
朝は谷の下流から風が吹き、夕方は山から風が吹き下り、
家の軒に黄色スズメバチが大きな巣を作ってもそのままにして、
天然の環境を舞台にして、子どもたちのキャンプを実践している。


この夏、「どあい冒険クラブ」の9日間のキャンプは無事に終了した。
テントを返しに我が家に昨日、陽に焼けて少しひげが伸びた大浜さんがやってきた。
「今年は30人の子どもたちが来ました。」
9日間のテント生活、小学生はたくましくなったことだろう。
毎年のようにやってくる子どもたちもいるという。
これこそ子どもの育つ場だと思う。ぼくも応援したい。