今日、福島の子どもたちは原発事故の放射能汚染のつづく福島へ帰っていった。
16日、一行はやってきた。「安曇野地球宿」へ、親と子、祖父母と孫、16人。いちばん小さい子は小学2年生、大きい子は中学2年生。
昨年一昨年より少し数が減った。
あいにくの天候不順で雨つづき、「安曇野ひかりプロジェクト」のスタッフに迎え入れられ、「地球宿」のなじみの部屋で、まずはくつろぎの一泊。毎年夏に行ってきたプロジェクトの3年目、保護者も子どもも、安曇野に帰ってきたという感覚がただよう。
2日目は黒沢川のほとりにあるキャンプ場へ移動した。大浜夫妻の主宰する「どあい冒険くらぶ」の森のキャンプ場だ。子どもたちはテントをはる。この日もときどき雨。
集中豪雨が各地で発生し、家屋の浸水や遭難事故も起こっている。穂高岳周辺の沢では死者も出ている。幸い雨量少なく黒沢川の水量はたいして増えなかった。長靴を履いてひとり上流の方へ様子を見にいってみたが、川の水量は平常よりいくぶん多い程度だった。川で魚をとるのが名人の、スタッフのマコ兄ちゃんが子どもたちと岩魚とカジカをとってきた。キャンプ場にクルミに木が生えていて、実もできている。一人の女の子がクルミの実を砕いてフライパンに入れ、焚き火にかけている。炒ったクルミは香ばしくておいしい。
この日は一家族一張りのテントに泊まる。ミーティングや食事をするところは、支柱を立て、大シートを何枚かつなぎ合わせて屋根にしてある。風をはらむとやばい。午後、雨が激しくなり、シート屋根の水が雨水入れのドラム缶にどうどうと落ちている。マコ兄ちゃんがドラム缶に入って頭まで水につかり、雨の妖怪になった。自然児マコ兄ちゃんはこういうおもしろい行動を取るものだから子どもたちは大好きだ。降り続く雨で、沢水を引いている炊事場の下はどろんこになった。夕方雨が小休止したところで、順番にドラム缶風呂に子どもたちは入った。風呂はオーじいちゃんが薪を使ってドラム缶3本、沸かしてくれていた。ハマ隊長がみんなを集め、おもしろおかしく笑わせながら、風呂の入りかたを説明する。ハマの話はいつも落語を聞くようにおもしろい。その間も、巨体の「番長」兄ちゃんが、火を起こし、夕食の焼肉準備をしていた。「番長」兄ちゃんは自称「火起こし名人」、つくる料理はおいしい。
キャンプの夜は、真っ暗くらのくらの闇。テントの生地一枚に包まれ、外は降る雨、森の大気がしっとりとテント内にも入ってくる。寝袋を敷く。シートの下は土と草の大地。トイレは200mほど離れたところにある循環のぼっとんエコトイレだ。キャンプはシンプルな自然の暮らし。
18日、やっとやってきたドピカーンの晴れ。ドピカーンだよ、ドピカーン。久しぶりの入道雲だ。
親と子ども、全員川で遊んだ。森に子どもたちの歓声と笑い声がこだました。ハマ隊長の話からすれば、この川遊びの愉快さは、子どもをすっかりとらえてしまったようだ。夏の子どもは、川の子、森の子、土の子。何より大好きなのは川遊び。川で魚や沢ガニをつかまえる。
堰堤の上から落ちてくる滝につかる子、飛び込む子、お父ちゃんと息子が水のかけっこをする、スタッフの兄ちゃんと子ども、子ども同士も、水のかけっこに熱中する。解放された生活の楽しさ、束縛のない仲良しの快適さ、ずぶぬれになって、やっつけるおもしろさ。川遊びの最中、安曇野市社会福祉協議会の樋口事務局長さんが、車を飛ばしてやってきてアイスクリームの差し入れをしてくださった。
「ひかりプロジェクト」にカンパをしてくださった横浜の「ぐりんてぃ」さんが松本に来られたついでに、キャンプを見に来られた。ありがたいことだった。ベース宿舎の「地球宿」を見学し、どあいキャンプ場へ案内する。何もかもが手づくりの、何もかも足りなくて、何もかもそろっている、ありのままの原初の暮らしのキャンプ場。
そこへ沢遊びに熱中し、アイスクリームを食べたチビッ子河童が戻ってきた。水着の河童たち、おやつは農家差し入れの、1個16キロの「どでかスイカ」を食べる。地元の小学生スタッフ、ワラちゃんがスイカを切る。道具は、ハマ隊長手製ののこぎり改造包丁。食べる前に、ハマ隊長の号令で、みんなでスイカの歌を歌ってスイカダンスをする。食べながら、ハマ隊長も加わって、スイカの種飛ばし。
仲良し深まり、あちこちで並んで座ったスタッフと子どもたちとの会話が、ほのぼのと楽しい。
その夜は子どもたちだけがテントに泊まり、子どもたちは森の子になった。
19日、周囲の山々くっきりと、空晴れ渡る。「地球宿」で、古いロウソクを溶かし、色を付けたのを使ってリンゴキャンドルをつくるワークショップだった。プロジェクトメンバーがこれまでたくさんの回数で行ってきたワークショップ。
早めの昼食をとると、保護者が希望する子どもの甲状腺検査を松本の共立病院でやってもらった。これは去年に続いて2回目だ。検査の後は、サッカー場のあるアルウィンに移動して、広い芝生のグラウンドでサッカー。緑のシバ、青い空、白い積乱雲、秋を想わせる空気だ。芝地のサッカー、福島ではできなかったことかもしれない。
夕食は、これまでプロジェクトを支援してくれている福島出身の、福島で修業してきたそば屋、「木鶏」で、おいしいソバを食べた。
キャンプを見て横浜に帰られた「ぐりんてぃ」さんからメールがとどいた。
「キャンプの様子を拝見し、皆さんいいお仲間だなあと感じ入りました。
お子さん達がすっかり場所に溶け込んでいらっしゃるのと、
スタッフの皆さんが和気あいあいと運営していらっしゃるのと、
キャンプサイトの楽しそうな雰囲気とを見て、私もとても嬉しくなりました。山々や青い空、せせらぎの音に、子どもの頃の心配する事も何もない、気楽だった夏休みの気分を思い出しました。
吉田さんに誘っていただいたおかげで、この旅行がさらに充実したものになり、本当に有難うございました。」
「ぐりんてぃ」様、また来てください。お話しできてよかったです。
わずかな日数でも、中身の濃いキャンプだった。福島の子ら、生きる力になったろう。
今日一行が「地球宿」を出発する前に、草むらから、メヒシバとエノコロ草とを10本ほどとってきて、子どもたちと遊んだ。メヒシバで草相撲、エノコロ草で手のひら毛虫。吉田仙人のつくったメヒシバの草相撲は強かった。
「やっぱり仙人だあ」