早春賦音楽祭

  <『大地讃頌』、賢治の『精神歌』>

 


沢水のように月日は流れて早くも一年がたち、今年の早春賦音楽祭がやってくる。
昨日の夜、男声パートの二回目の練習が穂高会館であった。
昨年早春賦音楽祭に参加するために誕生した「大地讃頌合唱団」は、今年も二回目の参加をする。
有明高原寮・少年院での「鐘の鳴る丘コンサート」に参加したメンバーは、他の市民合唱団と共に、今度は、東日本大震災被災者への祈りを込めて、歌うことになる。
もんぺ姿でやってきた西山さんは、お見かけしたところもう還暦を過ぎておられるのでは、と男たちでささやいたりしているのだが、情熱の塊は相変わらず、
ピアノを弾いて歌の指導をしてはみんなに話しかけ、持ってきた信濃毎日新聞に掲載された早春賦音楽祭のニュースを片手にもって、
「昨日、信濃毎日の支局へ行って、記者に話してきたのですよ。今度の音楽祭は、震災への祈りです。信濃毎日の先週の夕刊コラムに、記者がふるさと気仙沼を訪れて、学校で習った『大地讃頌』を歌いながら、復興の後押しをしていこうと書いていました。大地への祈りと、被災者への祈りと励まし、そして亡くなられた人への鎮魂の願いをこめて歌いましょう。」
しにものぐるいで、とおっしゃる西山さんだ。
ドミンゴが東京でコンサートを開きましたね。他の外国の演奏家が、日本は危険だとキャンセルしましたが、ドミンゴはコンサートを開いて、アンコールに歌ったのが日本語歌詞の『ふるさと』でした。きれいな日本語でしたね。あの励ましの言葉と歌に、涙する人がたくさんいました。音楽の力は大きいですよ。」
練習半分、お話半分、そんな一時間半が過ぎた。
コンサートで歌うのは、そのほかに三曲。混声合唱に編曲された「BELIEVE」「安曇野」など。
「西山先生。宮沢賢治の『精神歌』をご存知ですか。」
最近、この歌を歌う花巻農高の生徒たちの合唱がずっと僕の耳に残り続けている。
NHKが15年ほど前に放送した賢治のドキュメンタリーがこの震災のなかでアーカイブとして放送された。15年前の感動がよみがえってきて涙が出た。
この歌こそ、「大地讃頌」とともに歌われてよい歌ではないか、
僕はその思いを伝えたかった。
西山さんはその歌はよく知らないが、いくつか賢治の歌を知っている、今、賢治の精神が輝くときだ、ぜひその『精神歌』を調べてみたい、今年は無理かもしれないが、来年その歌を音楽祭で歌えればいいなとおっしゃった。
『精神歌』は、花巻農学校の校歌として作られたが、賢治は校歌にすることは辞退し、その後土井晩翠作の校歌が生まれた。
しかし、『精神歌』は今も花巻農業高校の生徒たちに歌い継がれている。


(1)
日ハ君臨シ カガヤキハ
白金ノアメ  ソソギタリ
ワレラハ黒キ  ツチニ俯(ふ)シ
マコトノクサノ  タネマケリ
(4)
日ハ君臨シ カガヤキノ
太陽系ハ マヒルナリ
ケハシキタビノ ナカニシテ
ワレラヒカリノ ミチヲフム


歌詞は四番まであり、上記は1番と4番。歌詞を作ったのは、賢治が花巻農学校の教師をしているときで、作曲は小学校の同級生だった川村悟郎との合作のようである。
岩手医科大学研究年報に載せられている黒澤勉氏の論文に、こう書かれている。


「『精神歌』は賢治の文学が、日本中の人びとに愛され、その生き方に熱い共感が高まる中で、新たに賢治の『精神歌』として今や単に一つの学校の歌にとどまらず、多くの人に愛唱される歌となっている。」