大地震を超えて、連帯する心

 



地震の翌日、法事で帰ってきた生まれ故郷・大阪の兄の家で新聞を見た。
読売新聞の朝刊は、全ページが東北巨大地震の記事と写真で埋まっていた。
前日、大地震が発生したとき、ぼくは特急「しなの号」の車中にいて、座席に座って眠っていた。
突然車内放送があり、「強い地震が発生しました。停車します。」の声と共に列車は木曽福島を通過したところ、木曽川を見下ろす山の傾斜地で止まった。
車内はことりとも音のない静寂に包まれた。
列車が動き出したのはそれから20分ほどしてからだった。のろのろと鉄路の安全を探るように特急電車は木曽路を下っていった。
中津川を過ぎてから列車はまたスピードを取りもどして名古屋に向けて疾走した。


あの静寂の20分間、列車の動くのを待っていた間、何の情報もなかったそのときに、東北地方では大津波が襲いかかり、家も人も飲み込んでいたのだ。そのことを知らなかった自分は、「どうして列車は動かないのだ。早く動いてほしい。」という自己本位の思いに占められていた。
ことの重大さを知ったのは、夜遅く、兄の家について、テレビを見てからだった。映像は恐ろしい津波の被害を伝えていた。


新聞の朝刊の記事のひとつに胸に響くものがあった。悲惨な記事の悲しみのなかに見つけた熱い心がぼくの心を打った。
それは、「日本は必ず立ち直る」と語ったオバマ大統領の言葉だった。
絶望的な状況の中で、心を打つ言葉を語れるオバマ大統領だと感じ入った。
安曇野に帰ってから、あのオバマの言葉をインターネットで探したら、見つかった。
3月12日のオバマ米大統領声明と記者会見.は次のような内容だった。


「ミシェルと私は、日本の皆さんに深いお見舞いを申し上げます。中でも地震津波愛する人たちを失った皆さんに、深いお悔やみを申し上げます。この大きな試練の時に、アメリカは日本の人たちを助ける準備ができています。両国の友情と同盟は揺るぎないもので、日本の人たちがこの悲劇を乗り越える間、私たちはそれを側で支えようと、決意を一層新たにしています。私たちは日本周辺と太平洋の津波を監視し続けます。また私は連邦緊急事態管理庁に対し、支援の待機をするよう指示しました。」
「まず何より、私たちの思いと祈りは日本の人たちのためにあります。これはとんでもない天変地異の大災害で、破壊と洪水の映像はあまりに悲惨です。日本はもちろんアメリカにとって最も強固で近い同盟国のひとつです。私は今朝、菅総理大臣と話をして、アメリカ国民になりかわり、深いお見舞いの思いを伝えました。特に、被害者とそのご家族に。そして日本の友人たちに、必要な支援はなんでもすると申し出ました。」
「本日の出来事で、命がいかにはかないものかを改めて思わせられました。日本や地域の友人たちに、思いを寄せています。みんながこの悲劇から回復し、復興するにあたって、私たちは側で支えるつもりです。」


記者会見の最後、朝日新聞の記者から「大統領個人の思いを」と質問されたオバマ氏のスピーチも書かれていた。


「この悲劇に非常に心を痛めています。日本で起きている事態を見ると、いかに文化や言葉や宗教が違っても、究極的に人類はひとつなのだと改めて思います。こういう自然災害に直面すると、それがニュージーランドだろうとハイチだろうと日本だろうと、自分が愛する人を亡くしたらどう感じるか、あるいは災害のせいで一生の蓄えを失ったらどう感じるか、考えるわけです。私たちは日本の人たちとあまりに親しく、私もあまりに日本の人たちと個人的に親しい友人関係やつながりがあるので、というのも私はハワイで育ち日本の文化にとても慣れ親しんでいるということもあって、それだけに身につまされて心配しています。しかし日本の人たちは実に見識と才覚豊かだし、日本は実に強力な経済と最先端技術を誇る経済大国でもあるので、日本は確実に復興するだろうと、私は確信しています。それに日本は自然災害への対応にも経験豊富です。これまでも乗り越えて来たし、今後もそうするでしょう。日本は必ず、前より強くなって立ち直る。それに私たちが協力できればと思います。」

 オバマ大統領の言葉ががこちらの心に響くのは、その言葉に託された心があるからだ。
「いかに文化や言葉や宗教が違っても、究極的に人類はひとつなのだと改めて思います。」
悲しみ、痛苦、絶望に共鳴する心は、国境を超える。
アメリカ、韓国、ドイツ、スイス、フランス、シンガポール、中国、タイ、ニュージーランド、オーストラリアなど諸国から駆けつけてくれた救助隊が、いま雪も舞う東北各地の、瓦礫と泥濘のなかで、日本の救助隊とともに活動を開始してくれている。
 困難を乗り越えよう、連帯を深めよう。