ペシャワール会、命を育む水路づくり


安曇野の農業用水路にもこんな橋が架かっている



アフガニスタンでもう27年、農村医療と農村復興をめざして活動しているペシャワール会
NHKは、ペシャワール会のリーダーである中村哲さんが現地住民とともに水路を完成させたスペシャル番組を報道した。
江戸時代からの日本の伝統技術、ジャ籠をつかって石垣をつくることをアフガンで使おうと考えた中村さんは、
福岡県の柳川を見学しその技術を取り入れ、
コンクリートではなく手づくり石垣の水路を25.5キロメートル築いてバンベリ砂漠まで水を通した。
石は現地ではいくらでも使うことが出来た。
水路が完成し、水は水路を潤しながら流れ、やがて砂漠には木が育ち、作物が稔るようになった。
これからさらに農民たちが自分たちで水路を永続的に守り、自給自足できるように、村づくりが進められている。
食が保障されるようになれば戦争もなくなる、住民たちの願いが熱く語られていた。


映像に見られたその水路のジャ籠を使った石垣は、見事なものだった。
石垣沿いに柳が緑の列を成して植えられ、その根が石垣のすき間にもはりめぐらされれば、石垣はより強固になる。
中村さんはもともと虫好きだったということで、考えてみればなるほど石垣というものは、虫や小動物のすみかにもなる。
そのことに思いが至ったとき、その逆の、日本のコンクリートで固められた護岸工事の無機質な、無表情な、非生命的な姿が頭に浮かんだ。
どこにも命が存在しない。
しかし石垣なら、水中ではすき間に、魚やザリガニ、エビ、貝などがひそむことができる。
水の上のすき間は、トカゲ、蛇、コオロギ、カエル、いろんな昆虫の隠れ家、棲みかになる。
動物にとっても好都合な環境になる。
それが近現代になって、ずんべらぼうのコンクリート擁壁に変わった。
大量生産、機械化、効率化というコンクリート文明。
ずんべらぼう、のっぺらぼうのコンクリート文明からは生命の多様性は守られない。
江戸時代の人々は、自分たちで自分たちの暮らしを守る技術を考案し、開発し、自分たちで必要なものを手作りした。
現代日本は、インフラは行政が企画し、業者が行なうもの、
自分たちの手作りの技術は滅びた。


中村さんの持っていった石垣づくりは、アフガニスタンの農民たちに幸せを生む技術として伝承された。
柳の木が水に影を落とす水路のジャ籠石垣と水の流れ、美しい景色になった。


トカゲがちょろちょろはいまわり、
虫がすだき、
いろんな木の実がなる。
稲が稔り、野菜が育つ。
小鳥がやってくる。
そうした小動物のすみかのある生命環境が人の心に潤いをもたらし、
美をもたらす。


アフガンの住民にとっても、日本の住民にとっても、
取りもどしていくべき環境、
生存が保障される環境、
戦争のない環境、
稔りをもたらす環境、
みんなでが寄り合ってつくる環境、
水路はそれを象徴して美しい。