朝の会話


                      蕎麦(そば)の畑


腰椎がね、五つ、だめになったの、それで痛くて。
腰椎、じゃあ椎間板ヘルニア
はい、手術しよか、とお医者さんは言ってくれるんだけど、
手術しても治るかどうか。
軟骨がすり減ってしまったんだねえ。そんなに痛いのに、今それ、水汲み?
この池のヘドロ、汲みだしてるんですよ。
農業用水路から庭に入れて、へえー、腰痛いのにようまあ。
この家に嫁に来て、私の家は農家じゃなかったから、教えてもらいながら、田を開くのに、石を取り出したんですよ。
ああ、この辺りは扇状地だったから、石がゴロゴロ出てくるんですね。
石、石、石、それを道に出して、積み上げて。一町五反の田んぼに米作りしてました。蚕も飼ってましたしね。農業は腰をかがめてする仕事でしょ。昔は田植えから、田の草とりから、稲刈りも、前屈みになってねえ。
そうだったねえ、たいへんだったねえ。
トマト作って出荷するのに、20キロ箱に入れて、それを持ち上げたり下ろしたり、運ぶんですよ、それで腰を痛めたかな。ぎっくり腰もようやりましたよ。
そりゃあ重労働だったね。それで三人子ども育ててねえ、たいへんだったねえ。
主人がおととし、脳梗塞で倒れて、後遺症で畑やれないから、私が全部やってる。
息子さんに手伝ってもらったらいいのに。
息子は週に一回、帰ってきてくれるし、娘も嫁ぎ先からちょくちょく帰ってきてくれるで。
そりゃ、いいですねえ。
いずれ息子は定年退職になったら一緒に暮らすことなると思うけど、それまでなんとかしなけりゃ。
田畑は人に貸して?
作ってもらってる。
その腰椎をなんとかならんもんかねえ。
私の腰もだんだん曲ってきましたよ。
杖を突いたらどうですか、このごろウォーキングの杖ありますよ。
あれもね、転ぶと危ないと言うからね。
いや、私もこの前、穂高の涸沢に入ったとき、杖使ったら、楽だったですよ。
この辺りの人は、年取ったらみんな腰が曲ってくる。
ああ、あそこのおばあちゃん、腰が九十度ほども曲って、それで草刈り機で草刈っていましたよ。
ご主人のじいちゃんはもっと腰曲ってる、土をなめるようにして、草刈ってる。
そりゃ、あぶないね、前のめりになったら、あぶないね。あれっ、この庭、涼しいですね。
樹が多いからね、私とこの庭の樹(屋敷森)の手入れは、植木屋に頼んでやってもらってる。
ほんとに大きな樹が多いですね。
屋根の高さぐらいで止めとけばいいというけど、こんなに背が高くなったから、植木屋が重機をいれて、ゴンドラを動かして枝打ち、剪定してくれる、
でも、この部分だけでも13万かかるんですよ。
ふーん、たいへんですねえ。ああ、長話になってしまった。腰痛いでしょ。
いや、今こうしていると、痛くないんですよ。
なんとか、腰椎治らないかなあ。治す方法、調べてみますよ。
入院すればいいんだけどね。
入院してでも、治しましょうよ。