お稲荷さんの社から飛び出してきた狐、
ちらりと僕のほうを見て、
麦畑に音もなく入り込んでいった。
十メートルばかり先、
麦の穂はしんと動きもしない。
ランは狐のみごとな隠遁の術に化かされて、
その道路横断さえ気づかなかった。
畔道へ来て、狐の匂いに気づき、
鼻を空に向けて、くんくん匂いをかぎ始めたが、
姿をくらました狐はとうに麦畑の底をひた走り、
はるか遠くへ去っていた。
まだ黄色に色づかないシルバーイエローとでも表現したくなる、
えも言われぬ色合いの麦の穂は、静まり返ったままだ。
昔、霧が峰のヒュッテ・コロポックルの主、手塚宗求さんからいただいた手紙に、
雪解けとともにヒュッテの北の沢を上ってくる狐のことが書かれていたことを思い出す。
霧が峰の狐は、丈高い草の原にまぎれ、
安曇野の狐は、麦の原にまぎれて、
姿を隠して移動する。


幼稚園に入園したばかりの孫のセイちゃんが、
少し言葉を話し始めた妹のアーちゃんと、パパママに連れられてやってくる予定だったが、
セイちゃんが熱を出して来れなくなった。
列車に乗ったら大張り切り、
鉄道大好き、なにもかも興味津々、
東京から特急「あづさ」に乗ってやってくるのを楽しみにしていたセイちゃん、
今回は「安曇野地球宿」の田植え体験の予定だったのに。
また今度。