じいちゃん、子どもになる




「かくれんぼ、しよ。」
「かくれんぼか、うん、しよ。」
じいちゃん先生はすぐ乗る。
「先生、オニだよ。」
「先生、オニか。うん。」
ぼくは、目をつむる。
「もう、いいかい。」
まあだだよ。」
「もう、いいかい。」
まあだだよ。」


そのうちに、ことりとも音がしなくなった。
「いくぞう。ゲゲゲのキタロウが、いくぞう。」
おどろおどろしい声を出して、ゆるゆる大きな部屋の中を歩き出す。
口をゆがめ、両手を広げ、
「ゲゲゲのキタロウが、来たぞう。
ゲゲゲのキタロウが、来たぞう。
このあたり、人間の匂いがするぞう。」
児童館の中、机と椅子をたくさん立てかけてあるところ、
机の下から、二人の子どもの足が見える。
でも、見つけない。
隠れる時間を長引かせる。
じっと息をひそませて、隠れる子どもたちに、
隠れる緊張を味わわせておく。
妖怪が近づいてくる、見つけられそう、
ひやー、こわい、
子どもたちは想像する。
想像すると怖くなる。
ぼくはいっそう恐ろしげな声を響かせる。
「ゲゲゲのキタロウが、来たぞう。
ゲゲゲのキタロウが、来たぞう。
あそこに人間の足が見えるぞう。
あそこに誰かがいるなー。」


こっちに立てかけた机の後ろに、ハルカとミホが隠れているのは分かっている。
あっちの机の後ろには、マコトがいるのが分かっている。
でも、見つけた言わない。
近づいては遠ざかり、
ヒヤヒヤさせて、ホッとさせて、
ヒヤヒヤさせて、ホッとさせて、
ころあいを見計らって、
ひそんでいるあちこちの隠れ場にそっと近づき、
「ワアー」
眼をむいて、どえらい大音声。
「マコト、見つけたあ。」
マコトの顔が引きつっておる、フッフッフ。
「ヒカリ、ハルカ、見つけたあ。」
ヒカリとリコは腰を抜かさんばかり。


S先生と交代。
S先生も役者だ。
「幽霊がいまから探しにくぞ。」
S先生は幽霊になった。


二人のじいちゃん先生、交代に何回もオニになって、
オニを楽しんだ。
オニも楽しいもんだ。
じいちゃん、だんだん子どもになった。


「カンケリ、しよか。」
「カンケリ?」
「知らないのかい。じゃあ、説明するよ。」
信濃の子は知らないのかな。
いや、このごろ日本中の子どもの世界から、
このおもしろい遊びは消えつつある。
最もおもしろい男遊びが「探偵」という「ワイドゲーム」。
「Sケン」と呼ぶ宝踏みも男の子の血が燃えた。
そしておもしろい遊びの上位にあったもう一つが「カンケリ」。
これも外遊び。
だが、ここは館内だから、カンは使わない。
ペットボトルを輪切りにしたのをカンの代わりにする。
カンを蹴って、みんなが隠れる。
オニは隠れたものを見つけたら名前を呼んで、カンのところに戻ってカンに足を置く。
見つけられたものがカンを、オニが足を置くより先にけとばせばセーフ。


ぼくが、オニになった。
ぼくは、大げさに演技して、隠れている子を探す。
右に行けば、左にすきができる。
すると左に隠れていた子が走ってきて、カンをけとばす。
けとばせば、今までつかまっていたものも、逃げることができる。
ぼくはわざと、すきをつくる。
ダッシュしてくる子に、そうはさせじと大声で叫びながら戻るが、
もうけとばされることを、期待している。
こうして、けとばされ、けとばされ、オニは続く。
このときの、隠れてすきを見て、オニを出しぬくおもしろさを、彼らが感じ取るまで、やってみる。


「カンケリおもしろかったあ。」
彼らは汗をかいて、満足そうだった。
伝承遊びの、おもしろさを子どもたちに伝える。
家に閉じこもって、ゲーム遊びをしている子どもたちに、群れ遊びのおもしろさを伝える。
毎日毎日、遊んで遊んで遊んで、じいちゃん、子どもになる。