破壊を進める文明

michimasa19372008-12-04




対向車線の車と衝突した車の運転手は若い女性だった。
携帯電話のメールに夢中になっていてハンドル操作を誤り、死傷者が出る事故になった。
最近長野県であったことだ。


地方の道路には、車道のないところが多い。
車の対向ができるだけの幅はあり、
そんな道を歩行者が歩く。
すぐ横を車は速度をゆるめずに走りすぎていく。
歩行者がよろめいたら接触する危険があり怖くなるが、
カーブの多い集落の中でもブレーキを踏まないで走るのがいる。
そんなドライバーが運転しながら携帯に夢中になっていたらどうなる。
速度を落とさない人に案外女性が多いのだ。
事故が起きないはずがない。


ノンフィクション作家の柳田邦男が重大なことを書いていた。
そのコラムの要旨をここに掲載しておこう。


「乳幼児の心の発達にかかわるシンポジウムで聞いた小児科医の報告には、慄然とさせられました。
 東京都内の病院近くの母子休憩所で、母乳を与えていた10人ほどの若いお母さんが、
誰も赤ちゃんの顔を見ず、全員もくもくと携帯電話でメールの確認や打ち込みをしていた、というのです。
 完全におっぱいが授乳装置になり、心はケータイにある。
 便利さ、効率のよさをもたらす現代の技術にのみ込まれると、それが心の領域にまで侵入して、大切なものを失わせてしまうのです。
 母親が、いとしくてたまらない気持ちで目を見、抱きしめ、声をかけることで、子どもの心は育ちます。
 私は全国で、絵本の読み聞かせの新たな重要性を訴えています。
テレビ、ゲーム、ケータイ、パソコンによって家族の会話が希薄になり、心がばらばらになっていく中で、
絵本の読み聞かせは、親子の生身の接触、物語の感動の共通体験を回復できる唯一のメディアで、
親も心が穏やかになり、子どもの心が豊かに成長するのを目の当たりに見ています。
 『命』の実感を身につけるには、自然に親しむことが基本的に大事ですが、
今の都市生活では、簡単じゃない。
そこで、幼いときから、母親が時には涙を流しながら一緒に読み聞かせる。
その積み重ねで、他者の悲しみを理解する気持ちが育ち、
『命』感につながる。
 今の時代は子育てを含め、社会のストレスが母親に集中しているから、虐待や無視も起こる。
夫と分担できる制度を、産業界も協力してしっかりつくるべきですよ。」
                     (朝日12/4)

こういう時代になっている。
柳田邦男は慄然としたが、「それがどうした」と気に留めない人も多いだろう。
それが怖い。
何もかもが便利で、速く、快適で、能率よく、コストや世話がかからないように、
利便性と機能性を追求する、そういう文明によって、音立てて壊れていくものがある。


青年大工のダイちゃんに、工房づくりの柱組みだけ手伝ってもらおうと相談した。
梁材の重さは1本80キロはあるだろうから、それを機械を使わないで自分一人で持ち上げることはとてもできない。
ここはひとつ若い力に手伝ってほしい。
ダイちゃんは、ログビルダーを志し、まだまだ勉強中のようだが、手伝ってくれることになった。
相談して帰っていったすぐ後に、ダイちゃんから携帯電話がかかってきた。
帰り道で、古い家を解体しかかっているのを見つけた。
家の所有者に話したら古材をもって行ってもいいと言ってくれている。
長い梁材が取れそうだから来てほしい。
ぼくはそれを聞いて、早速動いてくれているんだなと、胸にくるものがあった。
行く準備をしていたら、また電話がかかってきた。
柱や梁をはずしていたら、とても手間が掛かり、だめだと、解体業者が言っているという。
業者は、請け負った時間で重機を使い、ボカン、ボキボキ、ドサンと、家をまるごとたたきこわしてしまう。
家主は、古材を活用してほしいと思っても、解体業者はコスト優先でやっていくから、りっぱな古材が次々とゴミになっていくのだ。
金にならないものは役に立たないものだ、と。
それが現代日本の文明だ。
「残念だけれど、あきらめましょう」
とダイちゃんに言うしかなかった。